刊行に寄せて
日本の江戸時代、宏道流初代家元望月義想先生の没後、先生の高弟たちによって編纂された『袁中郎流挿花図会』と、中国明代末万暦年間の文人である(中国では詩人は文人の中に含まれる)袁宏道の著になる『瓶史』を全訳した『瓶史国字解』は、当時の日本の文化人やいけばな人に衝撃的な影響を与えました。
『袁中郎流挿花図会』は全出瓶作品が330余点という、日本華道史上に類をみないもので、それはまさに宏道流の金字塔であり、バイブルとして今日に至っています。近年では1995年、江戸時代の先人たちの偉業をしのび、加えて宏道流七代家元望月義琮先生の家元襲名5周年を記念する事業として日本で『宏道流平成挿花二百五十撰』を刊行しました。勿論、『袁中郎流挿花図会』『宏道流平成挿花二百五十撰』ともに『瓶史』の文人的な理念を踏襲した作品をみることができます。
この度、中国で宏道流いけばなを作品集『宏道流華道』として発表できることは、ある意味、袁宏道の「里帰り」ともいえることであり、(中国語の訳文には、 袁宏道の著作「瓶史」による宏道流は初めての里帰り にしております)宏道流にとりましても新しい歴史の始まりといえます。
加えて、本年は流祖義想先生生誕300年です。このような記念すべき慶賀の年に、本書が出版できることを心から喜びたいと思います。
本書を手にされた読者は、袁宏道『瓶史』の理念に基づくいけばな作品を通して、宏道流が文人的な挿花の精神を受け継いできたことを確かめることができるでしょう。
『瓶史』「清賞」にある、茗を啜りながら眺めるように本書に接していただければ、本書刊行の目的は達成されたかと思います。
最後に、本書の刊行にあたっては、日本の伝統文化に造詣が深く、宏道流いけばなを、中国で並々ならぬ熱意で紹介されている純道先生には多くの助言と励ましをいただきました。また、張寧さんには親切で丁寧な通訳の任をしていただきました。まさしく、お二人の力がなければ、本書が中国で生まれることは叶わなかった、と言っても過言ではありません。お二人には心から感謝いたします。
また、宏道流家元3代に亘りいけばなを学んできた門人·上村義尚氏には、本書にある作品の選択や編集の任にあたっていただきました。氏にもお礼を申し上げます。
宏道流八代家元
梨雲斎 望月義瑄
2022年流祖生誕300年正月