Causal Relationに関するさらなる記述
3.1 下位事象間の相関関係
causal chainという事象分析のアプローチでは、他動詞が表す動作事象は、自動詞が表す変化事象とともに、「引き起こす」という上位事象の下にあるとされている。たとえば、「太郎はドアを開けた」という他動詞文では、「太郎の働きかけ」という動作下位事象は、「ドアが開く」という変化下位事象を引き起こす。自動詞文の「ドアが開く」という事象は「ドアに働きかける」という事象とともに「引き起こす」の下位事象である。図で示すと、以下のようになる。
図1
さらに、形態的に関連しておらず、意味的に関連するペアについても、同じ分析が用いられる。たとえば、「太郎は花子を殺した」を例にすると、太郎の働きかけという動作下位事象は、「花子が死ぬ」という変化下位事象を引き起こす。「花子が死ぬ」は「太郎が働きかける」とともに、「引き起こす」という上位事象の下にある。図で示すと、以下のようになる。
図2
図1と図2がいずれも引き起こしの関係が上位にあり、対象に生じる変化(自動詞事象)が下位にあるということを示す。語彙概念構造のアプローチでも、同じ観点が見られる。
(21)
a. | [x ACT ON y]CAUSE[ | y BECOME[y BE AT z]] |
b. | y BECOME[y BE AT z] |
他動詞の語彙概念構造は通常(21a)のように示され、自動詞の語彙概念構造は通常(21b)のように示される。(21b)のy BECOME[y BE AT z]という自動詞事象は、(21a)のx CAUSE[y BECOME[y BE AT z]]という全体的な他動詞事象の一部分にあたる。(21a)は上位にあり、(21b)は下位にある。
3.2 交替している自動詞の意味特徴
Levin&Rappaport Hovav(1995)〔2〕も自動詞(非対格動詞)と他動詞の相関関係を論じている。L&RH(1995)の論述は、Croft(1991)より進んでいると思われる。L&RH(1995)は他動詞が基本で、他動詞から、「反使役化」という過程を経て、自動詞が派生されると主張している。この主張は、「反使役化」に制限があるという点においては、Croft(1991)より緻密だと考えられる。「反使役化」の制限とは、「反使役化」によってできた自動詞が自立(internally caused)という性質を持つものに限っているという制限である。
The internally caused eventualities such as break can come about independently in the sense that it can occur without an external agent.
(Levin&Rappaport Hovav1995:104)
Croft(1991)に即すれば、他動詞事象のcausal chain上の一部(変化の部分)にプロファイルしたら、自動詞が生まれると理解してもよい。しかし、実際は、そう簡単にはいかない。その変化の部分は、他動詞事象、言い換えれば、他動的行為に依存してはいけないという制限がある。つまり、自立(internally caused)という性質を持たない変化は、causal chain上の変化部分がプロファイルされても、自動詞は生まれない〔3〕。L&RH(1995)はcutの例を挙げて、それについて説明している。cutは、自動詞化という操作を許さない。
…this specification, in turn, implies existence of a volition agent. The very meaning of the verb cut implies the existence of a sharp instrument that must be used by a volitional agent to bring about the change of state described by the verb.
(Levin & Rappaport Hovav 1995:103)
他動詞cutには、必ず意識的動作主(volitional agent)がいる。この意識的動作主が脱落できない。変化の部分の事象〔4〕は、事象全体に意識的動作主がいないと、成り立たない。つまり、変化事象は意識的動作主に依存しているため、自立という性質を持たない。このような相関関係にある各下位事象は、たとえ変化の部分の下位事象がプロファイルされても、自動詞が生まれない。英語のcutや killのような他動詞は、「反使役化」という操作を許さない。言い換えれば、英語のcutや killのような他動詞に、対応する自動詞が存在しない。
(22)
a.John cut the fish.
b.*The fish cut.
cf. The fish was cut.
(23)
a.John killed Mary.
b.*Mary killed.
cf.Mary died.
Mary was killed.
以下も意識的動作主が脱落できないがゆえ、「反使役化」できない例である。
(24)
a.Granny made a doll.
b.*A doll made.
(25)
a.Marry wrote a long letter.
b.*A letter wrote.
(26)
a.The workers built a house.
b.*A house built.
(27)
a.The waiter cleared the table.
b.*The table cleared.
3.3 まとめ
以上の先行研究を踏まえて、causal relationの認定基準を以下のようにまとめる。
(28)下位事象間のcausal relationの意味的な判断基準
Ⅰ.力の伝達・移動が物理的に観察される否か。
Ⅱ.力を受けるものに生じる変化は、当該するcausal chain以外に、自立の解釈を持つか否か。
(29)下位事象間のcausal relationの具体的な判断テスト
NP1:「NPは何を働きかけたかというと、…」
NP2:同じ事象において「NPに何が起こったかというと、…」