1.はじめに

1.はじめに

前章で「-単一事象」自動詞について仮説を立てたが、「-単一事象」自動詞にはどのようなメンバーがあるのかということをまず明らかにしなければならない。影山(1996)は「脱使役化」自動詞を-ar-自動詞と同定している。本書でいう「-単一事象」は、他動的行為を土台としている自動詞事象であるという点おいて、影山(1996)の「脱使役化」自動詞と実質的な意味が同じである。したがって、本書の観点から解釈すれば、「-単一事象」自動詞にどのようなメンバーがあるのかという問題に対して、影山(1996)は-ar-自動詞がそのメンバーであるという答えを提供していると解釈される。しかし、第七章で指摘したように、-ar-自動詞は「脱使役化」自動詞と同定できない。本書の観点から言い換えれば、「-単一事象」自動詞は、-ar-という形態を持つ自動詞と特徴づけられない。

自動詞の実例の動向からみると、「-単一事象」自動詞は、「-単一事象」としか解釈されないもの、言い換えれば、専用「-単一事象」自動詞もあれば、「+単一事象」を表す自動詞が,一部の用法で「ー単一事象」を表すようなものもある。。前者は、たとえば「建つ、植わる」のようなものであり、後者は、たとえば「ミルクに砂糖が入っている」のような「入る」の一部の用法である。

また、「見える」や「煮える」のような自動詞は最初は「煮る」という他動的行為を前提としないと成り立たないが、しかし、「煮る」という他動的行為は完全に直接的に「煮える」という変化をもたらすわけではない。むしろ、「煮る」は「煮える」を「補助ないし促進」させた後、「煮える」主体、たとえば「イモが煮える」のイモは、それ自体で変化する。「煮える」は「-単一事象」と「+単一事象」の真中にある中間的な事象ではないかと思われる。また、「このイモはよく煮えるよ」「この本はよく売れる」などのように、「煮える」類自動詞は「よく」と共起するので、変化事象自動詞ではなく、ものの能力を表す状態動詞となる可能性が高い。それに対して、完全な「-単一事象」自動詞は「よく」と共起しない。「✳このビルはよく建ちます」「✳この木はよく植わる」。以上を用いて、「見える、煮える、売れる」類の自動詞を「-単一事象」自動詞から除外する。「見える、煮える、売れる」類の自動詞の考察・分析を今後の課題にする。

「-単一事象」自動詞のメンバーを確定したうえで、本章では『現代日本語書き言葉均衡コーパス・少納言』を用いて、「-単一事象」自動詞の中心メンバーである「入る」と「建つ、植わる」を対象に、そのアスペクト形式を中心に調査を行った。