3.まとめ
2025年09月26日
3.まとめ
コーパス調査では、「前田さんは、幼いころ、父を病気でなくしていた。」「3日前に財布を落としてしまいました。」のような例が多数出てくる。このような用例の特徴は、主体がまったく働きかけをしておらず、客体の変化事象を引き起こさない。主体の身にその事態が降りかかってきたという点である。
先行研究は、このような特徴を持つ文を「状態変化主体の他動詞文」と呼び、その主語の意味役割や文の成立条件などを分析している。本章は、そのような先行研究を踏まえた上、事象構造という観点から同じ現象を改めて分析した。具体的には、「状態変化主体の他動詞文」は複雑事象を表す他動詞文である。事象構造においては、統語的なデ格名詞と絡んでいる実際の行為者は客体と、単純事象をなしている。その上に、さらに統語的な主体が加わっており、複雑事象をなしていると本書は主張する。
注释
〔1〕「主体」は、天野(1987,1991)の用語である。
〔2〕プロファイルという言葉は、Croftの一連の研究からの引用である。
〔3〕第三章で述べたように、動作主、経験者、原因、道具という意味役割がcausal chain上のinitiatorになる可能性がある。
〔4〕その原因は田川(2004)を参照。
〔5〕受動文のcausal chain分析はCroft(1991:247-255)を参照
〔6〕受動文のcausal chain分析はCroft(1991:247-255)を参照