他動詞の意味的構造の全体像

第六章 他動詞の意味的構造の全体像

第四章と第五章では、先行研究が指摘した「通常の他動性の枠からはみ出してしまう」現象である「介在性の表現」と「状態変化主体の他動詞文」をcausal chainの観点から改めて分析し、この二種類の文はともに、動詞が表す事象には、統語上の主語とは別に、他の引き起こし手が存在すること、つまり、事象の本当の引き起こし手は、客体と[+cause]の関係の単純事象をなす。そして、統語上の主体は、その単純事象と[-cause]の関係の複雑事象をなすことを確認した。

「介在性の表現」に関する佐藤(1994b,1997)の先行研究と「状態変化主体の他動詞文」に関する天野(1987)の先行研究は、それぞれの枠組みで、現象を正しく記述し、現象についての分析も有効であると認める。しかし、この二つの現象はいままで別々の現象として捉えられ、それらを合わせ、他動詞の意味的構造の全体像を描くことは、これまでなされてこなかった。本章は、この二つの現象の共通点をまとめ、その共通点に基づいて、他動詞の意味的構造の全体像をどうとらえるべきかという問題を解決することを目指す。