1.1 本書の目的と基本的な立場

1.1 本書の目的と基本的な立場

現代中国語には、“给”という形式を含むさまざまな構文が存在する。本書は、そのような構文の意味的特徴に関する記述を行うものである。

中国語の動詞“给”は、「与える」という語彙的な意味をもつ動詞としての用法(例文(1))のほかに、文法化したと見られる用法をもっている。後者は、後に名詞句を伴うA類(例文(2)―(5))と直後に動詞句を伴うB類(例文(6)と例文(7))に大別できる。

(1)我给[1]了他一本书。

私は彼に本を一冊あげた。

(2)我买了一本书给他。

私は本を一冊買って彼にあげた。

(3)我送给了他一本书。

私は彼に本を一冊贈った。

(4)我给妹妹买了一辆车。

私は妹に車を一台買った。

(5)小张给小李打了。

張さんは李さんに殴られた。

(6)我给买了一辆车。

私は車を一台買った。

(7)小张给打了。

張さんは殴られた。

従来の研究では、本動詞の“给”が動詞であると認める点では一致しているが、文法化したと見られる“给”の品詞性に関しては、“给”が動詞であるかそうでないかについて、意見が分かれている。

朱(1979)では、本動詞の“给”を含め、連動式の“V……给”構文(例文(2))、“V给”構文(例文(3))、“给……V”構文(例文(4))の“给”はすべて動詞であると認める。ただし、“给……V”構文(例文(4))では、「授与」の意味を表す場合の“给”は動詞であるが、「服務」の意味を表す場合の“给”は介詞であると主張する。

一方、向(1960)では、A類の“V……给”構文(例文(2))の“给”を動詞、“给……V”構文(例文(4))の“给”を介詞、“V给”構文(例文(3))とB類に属する“给”を助詞と分類する。

“给”は動詞、介詞、助詞の三つの品詞性をもつと認める研究者が多く、《现代汉语词典(第6版)》(2012)でも似た分類をとっている。つまり、例文(1)のような本動詞の用法をもつ“给”を動詞とし、A類(例文(2)―(5))のように名詞句を伴う用法の“给”を介詞として、B類(例文(6)と例文(7))のように動詞句を伴う“给”を助詞とするものである。

以上のような分類は、さまざまな“给”を文法化による機能辞の派生による同音異義語、つまり異なる語として捉えている。

しかし、“给”を含む構文には、次の例文(8)のような「反復の制約」があり、“给”が介詞的に使われる用法で、本動詞の“给”の前にもう一つの“给”で導かれた間接目的語(Indirect Object、以下IOと略称する)をもつことが容認されない。

(8)a.我给老师送了一本书。

b.*我给老师给了一本书。[2]

私は先生に本を一冊贈った。

“给”の「反復の制約」は、介詞と動詞だけでなく、介詞と介詞、介詞と助詞の組み合わせにも適用している。しかし、ほかの介詞も同形の動詞をもつ場合が多いが、このような制約は観察されない。

(9)他在晚上八点以后在。

彼は夜の八時以後に居る。

この「反復の制約」は、これらのさまざまな用法が、同音異義の“给”を派生しているのではなく、“给”の語としての同一性が保たれた多義であると考えなければ、説明が難しい。

前述のように、朱(1979)は“V给”構文、連動式の“V……给”構文、“给……V”構文の“给”を動詞と認識する。本書は、「反復の制約」を考慮し、この説と同様に、これらの用法の“给”が、本動詞の“给”から、他の動詞との組み合わせによるさまざまな構文へ拡張した多義の関係にあるものであるとして分析する。

朱(1979)では、動詞の意味分類に応じ、“V给”構文、連動式の“V……给”構文、“给……V”構文及びこれらの構文と深い関連をもつ動詞が単独で構成する二重目的語構文、合せて四種類の構文を取り上げ、それぞれの構文の意味的特徴と相互関係について分析した。具体的には、“V给”構文に入る動詞は主に「授与」の意味をもつ動詞であり、“给……V”構文に入る動詞は「取得」の意味と「製作」の意味をもつ動詞であり、この三分類の動詞はいずれも連動式の“V……给”構文に出現することができる。そして、「授与」の意味をもつ動詞が単独で構成する二重目的語構文は“V给”構文の「緊縮式」であるとする。

本書も朱(1979)の“给”構文において動詞の分類によって拡張のしかたが異なるという見方を踏襲する。また、“给”構文の受動用法など「授与」以外の構文も含め、より包括的に“给”と他の動詞との組み合わせによる構文拡張の分析を試みる。