2.5 IOが現れない場合

2.5 IOが現れない場合

プロトタイプの二重他動詞の“给”構文では、一般的には、IOとDOの両方の存在が義務的である。しかしながら、構文前後の文脈からIOの指示対象が了解されている場合、IOが省略され、DOだけが現れる場合もある。

(44)现在,虽然政府给了要继续种桑树的准确信息,但是农民仍在种与不种之间徘徊。

(《1994年报刊精选》)

今、政府から引続きクワを植えるという確実な情報をもらったけど、農民は相変わらず植えるか植えないかを決められない。

(45)为了这部书能够尽早出版,赵增益和陈癸尊都给了极大的支持和关怀。この本ができるだけ早く出版できるために、趙増益と陳癸尊は極大な支持と配慮を与えてくれた。

(《1994年报刊精选》)

例文(44)では、後の文脈からIOが“农民(農民)”であることが分かるため、“给”の直後に現れなくても構文は成り立つ。例文(45)でも同様に、本動詞“给”の後にIOが出現していなくても非文とはならない理由は、前の文脈からIOが「この本の作者」ということがすでに分かるからである。これらの構文では、「IOが省略されている」と考えることができる。しかし、次の用例は少し異なる。

(46)7岁时我生了场病,我的肾有问题得吃药。但他们给错了药,我病得更厉害了。

(《我的世界我的梦》)

私は7歳の時病気で、腎臓に問題が出て薬を飲まなければならなかった。でも彼らが薬を間違えて渡したから、私の病気はさらにひどくなった。

(47)两个给完了钱出了酒铺儿,一边儿走着一边儿聊着就出了城啦。

(《中国传统相声大全》)

二人はお金を払い終わったら居酒屋を出て、歩いてお喋りをしながら街を出た。

(48)学习者也可以申请单独考试,教师通过Email将试卷发送给学习者,学习者提交答案后,教师给出评语。

(CWAC)

学習者は自分一人の試験を申請することもできる。教師にメールで答案用紙を送ってもらって、学習者が答えを提出した後に、教師から評語をもらうのである。

例文(46)―(48)では、IOが“给”の直後に出ていないが、前後の文脈から推測できる点は上記の例文(44)及び例文(45)に似ている。一方、本動詞の“给”の後の、IOの位置に、これに代わって“错(間違える)”“完(終わる)”などの結果補語や“出(出す)”を示す方向補語を伴うことが、上記の例文(44)あるいは例文(45)と異なる。

このことから、二重目的語構文では、動詞が結果補語や方向補語を伴う場合には動詞の後にさらにIOを置くことができないことが見られる。

また、“给”は、「反復の制約」(第3章)があるため、“给”を介詞的に用いて動詞の前にIOを置くことができない。このため、結果補語や方向補語を伴うような“给”は、IOをもつことが難しい。IOが構文に出現することができず、IOの状態変化は常に背景化(background)される。それに、DOの行き先となるIOが構文に現れないため、DOの位置変化が観察されるが、代わりにIOの位置に置かれる結果補語や方向補語で示されたDOの状態変化のほうに認知的な際立ちがある。これらの構文については、構文スキーマが次のようになっていると見る。

(49)S给R NP1

“给+R”の構文スキーマ

“给+R”のS:構文のS

“给+R”のDO:NP1

意味フレーム:SがNP1を(誰かに)授与した結果、NP1がRの状態になる。

また、次のような用例はDOが構文の主語に立ち、結果補語だけが本動詞の“给”に後続する。このような構文では、Sも背景化され、DOの状態変化のみが前景化(foreground)されている。

(50)(小费)给多了,心疼,给少了,丢份儿。

(《1994年报刊精选》)

(チップは)多く支払えば痛い、少なく支払えば恥ずかしい。

(51)当时想找活儿干的人很多,而工资也给得不高。

(《读者(合订本)》)

当時は仕事を探す人が多くて、給料も高くなかった。

(52)这个问题真令人头痛,稿费给少了,没人写;想多给,又拿不出那么多。

(《人民日报》1995年)

この問題は本当にうんざりする。原稿料が少なかったら、書く人がいない、たくさん払いたいが、そんな多額のお金を出せない。

例文(46)―(48)及び(50)―(52)のような構文では、IOが存在するが、構文に現れることができず、義務的に背景化される構文となる。これは上記の例文(44)と例文(45)のような、IOが構文に現れることが認められるが、省かれている場合とは区別しなければならない。

また、プロトタイプの二重他動詞の“给”構文では、DOの位置変化とIOの状態変化が観察され、メタファーによる拡張は、このうちIOの状態変化のみに着目するものがほとんどである。

ところが、例文(50)―(52)のようなDOが主語となる構文は、このようなDOの位置変化もIOの状態変化も見られない。この構文の示す意味的特徴は、DOが“给”に後続する結果補語で表された状態変化を被るということである。