6.4.1 “把……给”構文と“给”の構文スキーマ

6.4.1 “把……给”構文と“给”の構文スキーマ

「処置式」としての“把……给”構文は、その成立条件として、受動表現の場合とよく似たVR構造を要求する。それに、DOの前置構文であるため、Vの後には通常はDOが現れない、という点も受動表現と共通している。受動表現との違いは、能動文として、VPの行為者が文の主語として“把”より前に現れ、動詞の直前に残留しない、という点である。以上のことから、“把……给”構文の文構造を次のように提案する。

(31)“把……给”構文

NP1把NP2给VP

他把花瓶给打碎了。

[作例:自然度1.00]

彼は花瓶を壊してばらばらにした。

(32)“给”の構文スキーマの“把……给”構文への実現

“给”のS:NP1=VPのS

“给”のDO:NP2=VPのDO

“给”の補語:VP

意味フレーム:NP1がVPで表示された「状態変化を引き起こす働きかけ」によってNP2を変化させる。

具体的には、例文(31)の“把……给”構文が表しているのは、構文の主語である“他(彼)”がVPの示す“打碎了(壊して、ばらばらにした)”という「状態変化を引き起こす働きかけ」によって、DOの“花瓶(花瓶)”を変化させたということである。その中で、VPの“打碎了(壊して、ばらばらにした)”は、DOである“花瓶(花瓶)”の「変化の結果」として理解されてもいいVR構造である。

能動文である“把……给”構文では、“给”のSが前景化された主語として現れることができる、という点以外は、“给……V”構造を用いる受動表現と共通する枠組みとなる。受動表現では、VPの主語が“给”の後に任意に出現するが、“把……给”構文でも主語のNP1は、しばしば省略されるため、特に、意図性をもたない対象や、人間ではない対象が含意されている主語の省略では、“把……给”構文と“给……V”構造を用いる受動表現の違いが曖昧になることもある。

(33)a.把小王给吓坏了。

[作例:自然度1.00]

王さんがびっくりした。

b.小王给吓坏了。

[作例:自然度1.00]

王さんがびっくりした。

c.别把小王给吓坏了!

[作例:自然度1.00]

王さんをびっくりさせないで。

例文(33)aでは、“把……给”という能動文を使用しているが、構文全体の示す意味は例文(33)bの“给……V”形式の受動表現と非常に近く、どちらも「王さんがびっくりした」という意味を表している。ただし、意図性のある行為を含意する場合は違いが明白で、例文(33)cに示すように、禁止や命令の場合は、“把”が必須となる。