6.2.4 残留目的語について―“给”と“被”の比較を中心に―

6.2.4 残留目的語について―“给”と“被”の比較を中心に―

中国語の受動表現では、一般的には、受動表現の動詞句は目的語をもつ他動詞である。この目的語が主語の位置に置かれるため、他動詞の後には目的語が残らない。ところが、他動詞の後に目的語が残留する受動表現もあり、これが容認される場合は、受動マーカーによって異なる性質を見せている。

(23)a.他被炮弹炸掉了手指头。

(勝川2013:180)

彼は爆弾に指を吹き飛ばされた。

(24)a.他被小偷偷走了钱包。

(勝川2013:183)

彼は泥棒に財布を盗まれた。

例文(23)aと例文(24)aでは、共に“被”を用いる表現であり、主語と文末に位置する名詞句が、身体部位や所有といった領属関係を有する。そして、例文に示すように、主語の位置に現れるのは、動詞の目的語ではなく、その領属先であり、本来の目的語である領属物を指示する名詞句がVR構造の後に残っている。

このような、「領属先」を示す名詞句の主語格上げの成立に関しては、勝川(2013:185)によれば、「領属先と関係が想定しやすく、かつ緊密性が高い領属物のほうが“被”構文の容認度が高い」とする。

その反面、緊密性の低い領属関係をもつ名詞句は、次の例文(25)に示すように、許容度が格段に落ちる。

(25)*我被太郎撕破了报纸。

(勝川2013:185)

「私は太郎に新聞を破られた」の意

上記の例文(23)aと例文(24)aに示すような主語と残留目的語の間に領属関係をもつ“被”構文を“给”に入れ替えると次のようになる。

(23)b.??他给炮弹炸掉了手指头。

[作例:自然度0.47]

「彼は爆弾に指を吹き飛ばされた」の意

c.他的手指头给炮弹炸掉了。

[作例:自然度0.93]

彼の指は爆弾に吹き飛ばされた。

(24)b.??我给小偷偷走了钱包。

[作例:自然度0.37]

「私は泥棒に財布を盗まれた」の意

c.我的钱包给小偷偷走了。

[作例:自然度0.93]

私の財布は泥棒に盗まれた。

(26)a.??小王给人夺走了幸福。

[作例:自然度0.23]

「王さんは人に幸せを奪われた」の意

b.小王的幸福给人夺走了。

[作例:自然度0.90]

王さんの幸せは人に奪われた。

15名のコンサルタントを調査した結果、方言差に関わらず、領属物が文末に残留しない例文(23)cと例文(24)c及び例文(26)bのほうが許容度が高いということが分かった。

以上をまとめると、緊密性の高い領属関係を有する二つの名詞句において、“被”を用いる受動表現では、領属物が残留目的語として、文末に置かれることが許される。一方、“给……V”構造を用いる受動表現では、領属物が文末に残留しない方が容認度は高いという傾向が見られる。