5.3 IO及び主語が人間ではない“给……V”構文
“给……V”形式を用いる二重目的語構文の中には、次の例文(22)と例文(23)に示すように、IOが人間ではないものもある。
(22)当她缝完最后一针,给病人眼睛上盖上纱布时,她站起身来,腿僵了,腰硬了,迈不开步了。
(《人到中年》)
最後の一針をすませて病人の眼にガーゼをかけて立ち上がると、膝は棒のように硬直して腰が伸びず、歩くことさえも困難だった。
(23)倪萍对这位老师印象特别好,他一会儿给这位老师端水一会儿给她坐的椅子上加一个椅垫。吃饭的时候老是冲着这位老师笑。
(《活动变人形》)
倪萍はこの先生を酷く気にいって、お茶を出したり椅子の上にクッションを置いてあげたり、さかんにもてなした。
食事の時も先生の顔を見ては笑いかける。
例文(22)と例文(23)では、IOとして“给”の直後に位置するのは“病人眼睛上(病人の眼)”と“她坐的椅子上(彼女が座っていた椅子)”であり、場所を示す名詞句である。IOが場所名詞である場合、「物を獲得する」ということが含意されない。しかしながら、この場合はDOである物のIOの場所への位置変化が観察される。このような構文は、語彙概念構造の考え方では、「授与動詞」構文が所有変化構文であるのに対し、使役移動構文(caused-motion construction)として密接に結び付けられる構文であると言える。中国語の使役移動構文の中には、IOからの移動を表すものもある。
(24)路喜纯别过头去,给煮好的鹌鹑蛋剥皮。
(《钟鼓楼》)
路喜純は二人に背中を向けて、煮えたうずらの卵の皮を剥いていた。
例文(24)では、動詞の後のDOである“皮(皮)”の移動より、その結果としての“鹌鹑蛋(うずらの卵)”の状態変化に認知的な際立ちがあるのは明らかである。
この種の使役移動構文はどのような言語にもあると考えられるが、多くの言語で移動物をDO、移動先あるいは移動元・移動経路を場所表現で表すのに対し、中国語では移動先と移動元の表現として、介詞“在”を用いた場所表現のほかに、“给……V”構文を用い、IOで場所を表現して二重目的語構文で表すことができる。さらに、多くの言語には場所をDOとしてプロファイルして認知的な際立ちをおいた表現もある。このような認知的な際立ちに応じた構文の交替を、壁塗り交替(spray-load alternation)あるいは場所格交替(locative alternation)と呼ぶ。中国語でも、動詞によってはこの交替が可能であるので、中国語には三種類の交替構文があることになる。
(25)a.S在NP1V NP2
小李在墙上涂了漆。
李さんは壁にペンキを塗った。
b.S给NP1V NP2
小李给墙上涂了漆。
李さんは壁にペンキを塗った。
c.S把NP1V NP2
小李把墙涂了漆。
李さんは壁をペンキで塗った。