2.1 はじめに

2.1 はじめに

本章は本動詞の“给”構文について考察する。プロトタイプの本動詞の“给”が構成する構文は、一般的には以下のような語順をもつ構文である。

(1)S给NP1NP2

张三给李四一支圆珠笔。

[作例:自然度1.00]

張三は李四にボールペンを一本あげる。“给”に後続する目的語はNP1とNP2の二項があり、“给”は二重他動詞として二重目的語構文を構成する。典型的には、IOであるNP1が人間であるのに対し、DOであるNP2は物であり、「与える」ことの結果として、NP1がNP2を所有することが含意される。これは、主語のSがNP1にNP2を与えることにより、NP2の位置変化とNP1の状態変化との二つの変化と解釈することができる。NP1が省略されることもあるが、普通には出現するのが義務的であり、省略される場合も存在が含意される。認知言語学の創始者でもあるラネカー(Langacker 2008:393)では、このことを、この動詞が三つのprofiled participant(プロファイルされた=認知的な際立ちをもつ=参与者)をもつと表現する。Sが焦点参与者の中で、最も際立っている参与者(第1局所的際立ち)であり、トラジェクターと呼ばれる。NP1が二番目に際立っている焦点参与者(第2局所的際立ち)となり、ランドマークと呼ばれる。NP2が焦点参与者ではないが、中心的な参与者と思われ、動詞の意味に必要不可欠な要素である(ラネカー2011:91-92,471))。このことから、二重他動詞としての“给”は、次のようなスキーマを有すると考える。

(2)“给”の構文スキーマ

“给”のS:S

“给”のDO:NP2

“给”のIO:NP1

意味フレーム:SがNP1に働きかけ、NP2がNP1に接近可能となる。

本章では、まず、プロトタイプである本動詞“给”の意味的特徴について論説を行う(第2.2節)。次に、プロトタイプから拡張した、つまり構文を構成する名詞句が抽象物の“给”構文について述べる(第2.3節)。最後に、構文の面で、非典型的な文構造について論じる(第2.4節と第2.5節)。