6.2.3 反復の制約
前節では、DOを主語に繰り上げる受動化における中国語の受動表現の制約について分析した。本節では、“给……V”形式を用いる受動表現の「反復の制約」について論じる。
(20)a.张三给了李四一本书。
[例文(17)aを再掲]
張三は李四に本を一冊与えた。
b.*那本书给张三给了李四。
「あの本は張三に李四に与えられた」の意
c.那本书给张三拿走了。
あの本は張三によって持って行かれた。
(21)a.我给妹妹买了一辆车。
[例文(18)aを再掲]
私は妹に車を一台買った。
b.*那辆车给我买给了妹妹。
「あの車は私に妹に買い与えられた」の意
c.那辆车给我买下来了。
あの車は私によって買い上げられた。
(22)a.元二嫂高兴地给老元开门。
[例文(19)aを再掲]
元二姉ちゃんはニコニコしながら、元さんにドアを開けてあげた。
b.*门给元二嫂给老元打开了。
「ドアは元二姉ちゃんに元さんに開けられた」の意
c.门给元二嫂打开了。
ドアは元二姉ちゃんに開けられた。
例文(20)aは本動詞の“给”構文であり、例文(21)aは「授与」の意味を表す構文、そして例文(22)aは受益構文である。これらの構文に受動マーカーの“给”を加えると、例文(20)b—(22)bに示すように、いずれも非適格な構文となる。
これは、受動マーカーの“给”は、本動詞の“给”やIOを導く“给”と共に構文に現れることができず、“给”の反復を避けるという「反復の制約」があることを示している。このため、受動表現の“给”は例文(20)c—(22)cに示すように、単独で“给……V”構文を構成するのである。
このことから、“给……V”形式を用いる受動表現では、“给”の反復を避けるため、本動詞としての“给”や、IOを導く“给”を含む能動表現に対応するような受動構文をもたない、ということが分かる。