5.1 はじめに

5.1 はじめに

本章は“给……V”形式を用いる二重目的語構文について考察する。この種の構文は一般的には、以下のような語順で現れる。

(1)S给NP1V NP2

我给他送了一份礼物。

私は彼にプレゼントを贈った。“给”に後続する名詞句は、NP1とNP2の二項であり、二重目的語構文を構成するのは第2章と第4章で述べたプロトタイプの本動詞“给”や“V给”構文に似ている。しかし、“给”に導かれるNP1がVに前置される点が“V给”構文と異なる。そして、プロトタイプの本動詞“给”及び“V给”構文と違い、DOの位置に現れるのは名詞句ではなく、VP(=V+NP2)という動詞句であると見ることもできる。

第2章で言及したプロトタイプの本動詞“给”と同様、IOとして前置されたNP1は構文に顕在するのが一般的であるが、NP1が文脈で了解されている場合、“给”を残したまま省略されても構文の適格性には影響しない。NP1が省略されると、本動詞では“给”の直後にDOが残るが、この構文では、“给”が直接Vを後続させることとなる。

朱(1979)が指摘するように、一般的には「授与」を意味する動詞は“V给”構文に現れ、「取得」や「製作」を意味する動詞は“给……V”構文を選択する。このような“给……V”構文は広く受益構文と呼ぶ説も多い(盧1993、袁1997、楊2009など)が、NP2がNP1に授与される場合もある。

さらに、“V给”構文に現れないが、この構文のみで“给”を伴うことがある動詞も多い。この場合にも、NP2からNP1への移動がある場合とない場合がある。NP1は、人間である時もあるが、場所を示す時もある。NP1が場所の場合は、NP2からNP1への位置変化があり、これはNP1は授与の対象ではなく状態変化のランドマークとなる。

このような違いを考慮し、本章は五つの節を設ける。第5.2節では、“V给”構文と“给……V”構文との違いに関する主な先行研究をまとめながら、物の位置移動が見られる“给……V”構文が生じる二義性について述べる。第5.3節では、“给……V”構文のみをもつ動詞のうち、NP1が場所であるような状態変化構文について論じる。特に、この構文では、NP1が“给”のIOとなる場合、“把”を用いる構文でNP1がVの前置DOとなる場合、“在”を用いる構文でNP1が場所句となる場合、いわゆる「壁塗り交替」について三つの構文を比較して論じる。第5.4節では、“给……V”構文のみをもつ動詞のうち、NP1が人間である場合について論じる。これらの動詞は、「给+NP1」を伴わない構文では再帰的行為を表す動詞であり、先行研究では受益構文に含める分析や、使役構文とする分析もある。第5.5節では、第5.2節と第5.4節を踏まえ、改めて受益構文の構文的特徴について再検討する。第5.6節では、これまで論じた“给……V”構文をまとめる。

これらのさまざまな構文は、すべてIOとDOという二つの目的語をもっている点で、動詞としての“给”の構文スキーマを保っていると考える。意味上ではIOのNP1が受けるのはVPの示す動作行為であるため、本章はVPも構文スキーマに組み込む分析を考え、“给”とVPが共通のSをもつ連動文に似た二動詞構造“给……V”をもっているとみなす。このことから、“给……V”構造を用いる二重目的語構文では、“给”の構文スキーマが次のように実現すると主張する。

(2)“给”の構文スキーマの“给……V”構文への実現

“给……V”のS:S

“给……V”のDO:NP2

“给……V”のIO:NP1

意味フレーム:Sが働きかけVを行い、NP2を変化させるあるいはNP2を発生させるNP1はVPの結果を得る。

①NP2の位置がNP1の領域外からNP1の領域内に変化するあるいはNP2がNP1の領域内に発生する。

②NP1の領域内でNP2の状態が変化する。