4.1 はじめに
本章では、“V给”構文について考察する。“V给”構文は、典型的に以下のような語順で現れる。
(1)S V给NP1NP2
我送给他一支铅笔。
私は彼に鉛筆を一本贈った。
“给”に後続する目的語がNP1とNP2の二項であるため、二重目的語構文を構成する点や、NP1が人間であるのに対してNP2が物であることは第2章のプロトタイプの“给”構文に似ている。
しかし、プロトタイプの“给”構文では、“给”が単独で二重他動詞として機能しているのに対し、本章で取り扱う“V给”構文では、「V+给」という形式になっており、その全体が単一の二重他動詞を構成する。また、プロトタイプの“给”構文では、NP1が文脈で了解されている場合は、NP1が省略されてもいいのに対し、“V给”構文では、一般的にNP1の出現が必須である。
“V给”構文のVには、単独でも二重他動詞として現れうるものと、単独では二重他動詞としての用法をもたないものが二つある。このことから、“V给”構文は、“给”の構文スキーマが“V”本来のスキーマの「拡大構文スキーマ(augmented constructional schema)」(Langacker 2008:249)として拡張されたものであると考える。[1]
(2)“给”の構文スキーマの“V给”構文への実現
“V给”のS:S
“V给”のDO:NP2
“V给”のIO:NP1意味フレーム:Sが働きかけVを行いNP2の位置を変化させる、またはNP2を発生させた結果としてNP2の位置がNP1の接近可能な領域内になる。
第2章で述べたように、“给”を動詞と見る朱(1979)は、中国語の二重他動詞のうち、「授与」の意味を表すものは基本的に“V给”の文型で現れるとするが、動詞単独で二重他動詞となる「授与動詞」は、“V给”の「緊縮形式」である、とみなしている。ただし、“V给”で二重他動詞となる「授与動詞」の中には、動詞単独では二重他動詞構文にならず、IOを前置する“给……V”構文をとるものも多い。本章ではまず、朱(1979)による分類を第4.2節でまとめ、そして第4.3節以降で問題点を指摘する。