5.5.3 特殊な受益構文
前述のように、“给……V”形式を用いる受益表現では、VP[V+DO(NP2)]の成立条件として、Vは高い他動性をもたなければならないことと、DO(NP2)はIO(NP1)の領域にありトラジェクターの領域にあってはならないという制約が見られる。
しかし、上記で述べた制約がまったく適用されない特殊な“给……V”形式をとる受益構文がある。それは、命令文のみで現れる“给我”を含む構文である。
(107)’a.你(给我)去北京!
[作例:自然度1.00]
北京に行ってくれ。
b.你别(给我)去北京!
[作例:自然度1.00]
北京に行かないでくれ。
(108)’a.你(给我)坐飞机!
[作例:自然度1.00]
飛行機に乗ってくれ。
b.你别(给我)坐飞机!
[作例:自然度1.00]
飛行機に乗らないでくれ。
(109)’a.你(给我)待在身边!
[作例:自然度1.00]
そばに居てくれ。
b.你别(给我)待在身边!
[作例:自然度1.00]
そばに居ないでくれ。
(114)’a.你(给我)看电视!
[作例:自然度1.00]
テレビを見てくれ。
b.你别(给我)看电视!
[作例:自然度1.00]
テレビを見ないでくれ。
(115)’a.你(给我)听那首曲子!
[作例:自然度1.00]
あの曲を聞いてくれ。
b.你别(给我)听那首曲子!
[作例:自然度1.00]
あの曲を聞かないでくれ。
(116)’a.你(给我)喝这杯酒!
[作例:自然度1.00]
このお酒を飲んでくれ。
b.你别(给我)喝这杯酒!
[作例:自然度1.00]
このお酒を飲まないでくれ。
上の例文(107)’a―(109)’a及び例文(114)’a—(116)’aに示すように、受益構文としては非適格な用例であっても、“给我”を含む命令文では構文の許容度が上がる。“别”が加わる「禁止」の意味を示すb文でも同様である。
この“给我”は、一見、日本語で話し手を受益者とする「~してくれ」に似ている。しかし、中国語の“给我”は、「~してくれ」のような依頼のニュアンスもある[10]ものの、この場合はむしろ、命令文・禁止文単独で明示できる話し手の「強い要求」をより強調するために加えることが多い。このような命令文が通常の受益構文と共通にもっている特徴は、“给我”が構文の必須項ではない、という点だけである。[11]