6.4 “把……给”構文及び“被……给”構文の“给”

6.4 “把……给”構文及び“被……给”構文の“给”

本書では、“给”を用いる受動表現において、“给”の後に必ずしも行為者名詞が現れず、VPが直接後続することを考慮し、補語をもつ“给”の構文スキーマの補語がVPである、という分析を提案した。この解釈は、他動詞能動文で「処置式」と呼ばれる前置DO“把”に後続する“给”(以下、“把……给”構文と呼ぶ)及び、受動表現で、行為者名詞句を導く“被/让/叫……”に後続する“给”(以下、“被……给”構文と呼ぶ)の用法にも応用できる。

なお、上述のように、“被”を用いる受動表現では、行為者を示す名詞句が出現しなくてもいいが、“被……给”構文では、行為者が顕在化している場合にのみ成立する。

構文論を中心とする先行研究では、“把……给”構文や“被……给”構文における“给”の役割として、“给”が省略されても構文の成立に影響しない(朱1982:181)ため、出現が任意であり、機能をもたない要素とされる。出現する場合の意味については、単に構文の語気を強める(李2004)という分析から、動作の方向性の強調に注目する論考として、佐々木(1996:65-66)では、“给”は動作行為とその関与者との間に抽象的な方向性をもたらす文法成分であると定義される。また、温・范(2006)はこの“给”が焦点化表記として機能し省略できるが、動作の結果を突出させるとされる。沈・司马(2010)は、行為者が出現しない受動文を対象に、構文中の“给V”が独立の動詞構造であり、“给”は「中動相(middle voice)のマーカーとして「外力」をもたらす役割があるという新たな分析を提出している。