5.2.2 まとめ

5.2.2 まとめ

第5.2.1節では、“给……V”形式を用いる物の位置移動が見られる構文の意味的特徴及びこの構文が生じる二義性について分析した。このような構文の多くでは、基本的には、プロトタイプの本動詞“给”と同様、主語のSがIOのNP1に物であるNP2を授与するということを意味する。物のやりとりが観察されるため、いまだにプロトタイプのような物の授与構文の特徴が保たれていると思われる。

ところが、“给……V”形式を用いる構文は、移動物のNP2が必ずしもIOのNP1に移動したという位置変化が含意されるとは言えない。その結果、IOであるNP1の経る変化は、物の受け手としての変化ではない場合も生じる。

このような違いには、“给……V”構文に用いられる動詞の種類あるいは、事象の意味的な枠組みがかかわっている。“送”に関しては、動詞自体が「授与」の意味をもち、「给+名詞句」が加わり、物の受け手がIOとしてプロファイルされる。

また、“给……V”構文で新たに受益者が参与者として加えられると、二義性が生じる。この場合の物の受け手は背景化されなければならない。“寄类(「差し出す」類)”と“写类(「書く」類)”のように、物の受け手の存在を含意する動詞では、「给+名詞句」が加わり、物の受け手が明示される。そして、新たに加えられる受益者を含め、二義性が生じる。また、「取得」の意味をもつ動詞では、物の受け手が新たな参与者として加えられ、「物の起点」は背景化される。これも新たな行為の受益者が追加されると、二義性が出る。さらに、「製作」の意味をもつ動詞では、新たに加えられるのが物の受け手と受益者のいずれかとなり、二義性が生じる。

“给……V”構文は、本動詞の“给”と同じく必ず二つの目的語をもつが、その目的語がプロファイルする参与者の意味役割は動詞に応じて異なる、ということになる。第5.3節以降では、「授与」の意味をもたず“V给”構文に現れない動詞の参与者について見ていく。特に興味深いのは、受益者の意味役割が動詞に応じて異なり、単に「行為の受け手」と見るには制約が多い、という点である。“给”の導く受益者は、中国語では動詞によって選択されたIOであり、このため、中国語の受益構文は必ずDOを要求する。それだけではなく、DOと移動物の受け手以外の何らかの意味的な関係をもつ場合もある。これに関しては第5.5節で詳しく分析する。