6.4.2 “被……给”構文と“给”の構文スキーマ

6.4.2 “被……给”構文と“给”の構文スキーマ

受動表現では、行為者が明示された場合に、“给……V”形式を用いる受動表現を除き、行為者の示す名詞句の後に“给”が出現することができる。そして、受動表現のVPは、“给……V”形式を用いる受動表現で行為者が明示されない場合と同様に、“给”の直後に現れることになる。このVPを、“给”の補語とみなすと、“把……给”構文と関連した解釈が可能である。

(34)“被……给”構文

NP1被/让/叫NP2给VP

小王(被/让/叫)小李给打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは李さんに殴られた。

(35)“给”の構文スキーマの“被……给”構文への実現

“给”のS:NP2=VPのS

“给”のDO:NP1=VPのDO

“给”の補語:VP

意味フレーム:NP1がNP2のVPで表示された「状態変化を引き起こす働きかけ」によって変化する。

具体的に、例文(34)の“被……给”構文が表しているのは、構文の主語である“小王(王さん)”が、行為者である“小李(李さん)”によるVPの示す“打了(殴られた)”という「状態変化を引き起こす働きかけ」によって、怪我したといった状態に変化するということである。その中で、VPの“打了(殴られた)”は、行為の受け手である“小王(王さん)”の行き先、つまり「変化の結果」として理解されてもいい。

“被……给”構文は受動表現の一種である。そのVPのDOとしての“小王(王さん)”は、“给”のDOでもあるが、主語の位置を占める。この結果、VPの主語である“小李(李さん)”は、“给”のSでもあり、次の例文(36)aと例文(36)bに示すように、“给”の直前の位置に必ず現れなければならない。この点が“被”を用いる例文(36)cの受動表現と異なっている。

(36)a.小王被小李给打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは李さんに殴られた。

b.*小王被给打了。

「王さんは殴られた」の意

c.小王被打了。

王さんは殴られた。

この“给”のSである“小李(李さん)”は、VPのSでもあるが、次の例文(37)aに示すように、すでに“给”の直前に現れているため、再び“给”の直後、即ち、VPという“打了(殴られた)”の直前に位置する必要がない。この点は、“给……V”構造を用いる受動表現と異なっている。

(37)a.小王被小李给打了。

[例文(36)aを再掲]

王さんは李さんに殴られた。

b.小王给小李打了。

王さんは李さんに殴られた。

また、“被……给”構文と“把……给”構文の関連性としては、次の例文(38)aと例文(38)bに示すように、受動表現の“被……给”構文は能動文である“把……给”構文のNP1とNP2を入れ替えた構文のようにも見える。

(38)NP1被/让/叫NP2给VP

a.小王(被/让/叫)小李给打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは李さんに殴られた。

NP1把NP2给VP

b.小李把小王给打了。

[作例:自然度1.00]

李さんは王さんを殴った。

能動文の“把……给”構文や受動表現の“被……给”構文における“给”の役割に関して、本書では温・范(2006:20-23)の主張、即ち“给”が動作の結果を突出させるという主張に賛成する。また、“给”はこのような役割を果たす可能性として、次のように考える。

すでに、第6.1節で述べたように、“给……V”の受動表現は次の例文(39)aに示すような形式をとる構文である。そして、「処置式」としての“把”構文でも、受動表現の“被”構文でも、次の例文(39)bと例文(39)cに示すように、“给……V”形式の受動表現の場合と同様、一般的には文末にVP動詞句をもつ。

(39)a.NP1给(NP2)VP

小王给(小李)打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは李さんに殴られた。

b.NP1把NP2VP

小李把小王打了。

[作例:自然度1.00]

李さんは王さんを殴った。

c.NP1被NP2VP

小王被小李打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは李さんに殴られた。

例文(39)aに示した“给……V”構造の受動表現で、行為者であるNP2の“小李(李さん)”が、しばしば背景化され、“给”に直接動詞句のVPが接続する例はほとんどである。

本書では、“给……V”形式を用いる受動表現のVPを「変化の結果」として、一種の特殊な結果補語であると考える。そして、“给”は“把”構文や、“被”構文に入る場合、“把……给”構文及び“被……给”構文を構成するが、既述のように、これらの構文でも“给……V”構造の受動表現と同じく、文末のVPを“给”の結果補語と解釈できる。

“给……V”構造を用いる受動表現は、“给”がVPの直前に現れ、VPの示す「動作の結果」を突出させる役割をもつ。“把……给”構文や“被……给”構文の“给”においても、同様な理由で、“给”がVPの直前に現れることによって、“给”のDOに相当する前置目的語や受動文の主語が、補語としての働きかけの対象として帰着する結果により、「動作の結果の突出」の役割を果たすのである。