5.3.5 まとめ
2025年09月26日
5.3.5 まとめ
第5.3節では、主としてIOが人間ではない場合の“给……V”構文について考察を行った。この構文は、場所をIOとしてプロファイルした使役移動構文とみることができる。第5.2節で述べた物の位置移動構文と異なり、IOとなる場所は、移動の目標だけでなく、移動の起点を含む場合もある。
これらの“给……V”形式をとる使役移動構文との交替が見られる場合を中心に、“在”を用いて場所を介詞句で表現する使役移動構文や、“把”を用いて場所をDOとする状態変化構文と比較した。
場所をIOとする“给……V”構文やDOとして表す“把”構文では、移動よりも移動によって引き起こされた場所の状態変化に認知的な際立ちがあると考えられる。移動物は通常、個別性の低い量詞を伴わない裸の名詞句である。これに対し、“在”を用いて場所を介詞句で表現する使役移動構文では、介詞句は動作を行う場所を表現し、方向補語で具体的な場所を特定しなければならない。一方、“给……V”構文では、“给”に後続する場所名詞の方向補語は任意に付加される。場所名詞句がDOとなる“把”構文の場合には、場所名詞句は方向補語を伴うことはない。
さらに、場所を前置DOとする“把”構文と対照すると、“给……V”構文は移動場所にある物の一部が状態変化を引き起こすことが容認できるのに対し、“把”の後のDOは物の全体の状態変化を要求することが分かる。
“给……V”構文の主語が人間ではない場合、ほとんどの場合は主語が出来事として現れ、抽象物をDOとする構文が多い。構文の意味的特徴は、主語である出来事がIOの人間に何らかの影響を与えることによって人間がある精神的な状態変化を経ることを、位置変化の結果としての場所の変化のメタファーで表示しているということである。