6.1 はじめに

6.1 はじめに

本章では“给……V”形式を用いる受動表現について考察する。受動表現は、一般的には以下のような語順をもつ構文である。

(1)NP1给(NP2)VP

小王给(小李)打了。

[作例:自然度1.00]

王さんは(李さんに)殴られた。

受動表現における“给”がVに前置される点は第5章で言及した“给……V”形式の二重目的語構文に似ている。“给”に後続する名詞句のNP2に関しては、第5章で述べた受益表現で“给”の直後の受益者が省略されても構文の適格性に影響しないのと同様に、受動構文でも“给”の直後のNP2も省略可能である。ただし、受益表現の場合は特定の受益者が構文に現れなくても、前後の文脈で明示されていなければならない。それに対し、受動表現の場合はNP2が特定される必要はなく、しばしば背景化され、“给”に直接動詞が接続する形式をとる。

本章では、VPを結果補語として“给”の構文スキーマに組み込む分析を考える。

(2)“给”の構文スキーマの受動表現への実現

“给”のS:(背景化されて非実現)

“给”のIO:(背景化されて非実現)

“给”のDO:NP1(=VのDO)

“给”の補語:(NP2)VP

意味フレーム:NP1が、(NP2)VPで表示された「状態変化を引き起こす働きかけ」によって変化する。

中国語の動作の対象が主語の位置に前景化され、動作者が背景化されるというのは、多くの言語の受動表現に共通して観察される現象である。本動詞としての“给”でも、第2章で述べた以下のような例文で、同様のDOの前景化と、背景化されたSとIOの非実現が観察される。

(3)这个问题真令人头痛。稿费给少了,没人写;想多给,又拿不出那么多。

(《人民日报》1995年)

この問題は本当にうんざりする。原稿料が少なかったら、書く人がいない、たくさん払いたいが、そんな多額のお金を出せない。

本章はまず、このような構文スキーマに従う受動表現の成立条件について記述を行う(第6.2節)。次に、“给”の役割を論じる(第6.3節)。その後、“把……给”構文及び“被……给”構文を分析し、このような構文も“给”の構文スキーマの実現が含意されることを示す(第6.4節)。最後に、“给……V”形式を用いる受動表現の拡張のプロセスを明らかにする(第6.5節)。