5.5.5 まとめ

5.5.5 まとめ

第5.5節では、“给……V”構文の受益用法について分析した。このタイプの構文ではIOの表す受益者が、DOで表された対象ではなく、Vで表された動作行為の結果を受け取る構文である。このような受益表現に以下のように新たに定義を試みた。

①中国語の受益構文は、VPの目的語で表された対象ではなくVPで表された行為の受益者を新たに参与者とし、これをIO(NP1)としてプロファイルする構文である。

②成立条件として、Vは他動性のある他動詞でなければならず、しかもDO(NP2)は、IO(NP1)の領域にあり、トラジェクター(S)の領域にあってはならない。

これらの制約は、中国語の受益構文がなぜ二重目的語構文でなければならないのかを説明する。この構文は、トラジェクターが自らの領域の外にあるIOに近接する領域の対象物に働きかけを行い、この対象物を変化させることによってIOに利益を授与する、という意味構造をもっており、身体部位を対象とする他動詞の“给……V”構文と近接した関係にあると言える。

ただし、“给我”を含む命令文は、特殊な受益構文として、この制約が観察できず、単に“给”のIOが“我”であり、授与されるのは何らかの行為(VP)であることのみを条件として成立する。

さらに、受益表現の“给”を、同様な受益表現のマーカーとされる“替”や“为”と比較した。“给”“替”“为”は利益の受け手を導く用法をもつが、それぞれ利益の受け手としての解釈が異なる。“给”で導かれた受益者はIOであり、構文に応じ、受益者か、物の受け手かのいずれかとなる。“替”の直後に現れる受益者は主語の代行により、利益を受け取る者となる。また、“为”は受益者と物の受け手の両方の解釈が可能である。しかし、受益者と物の受け手の両方が顕在される場合に、“给”に導かれるIOが物の受け手、“替”と“为”に導かれたのは受益者でなければならない。IOが受益者となる場合に、物の受け手は存在が含意される場合も背景化する。