5.5 受益用法の“给……V”構文

5.5 受益用法の“给……V”構文

第5.3節と第5.4節は、“V给”構文に現れない動詞が“给……V”構文に現れる場合のいくつかの型を取り上げた。第5.3節で論じた「使役移動動詞」と第5.4節で論じた「着脱類動詞」は、NP2の位置が“给”に後続するIO(NP1)を起点あるいは終点として変化する構文を作る。第5.4節で論じた身体部位を対象とする他動詞は、当初からNP1の領域内にあるNP2の位置は変化しないが、状態が変化する構文を作る。第5.4節で論じた再帰動詞は、NP1がNP2を何らかの形で取得するという点で、第5.2節で論じた「取得動詞」の型の授与構文を見ることができる。これらは、NP2の当初の位置が、NP1の領域内である場合(NP1を起点とする位置変化と、NP2の状態変化)と、NP1の領域外という構文がNP1の領域内への位置変化を含意する場合とに大別できる。その他の動詞の“给……V”構文についても、この二分法が有効であると考える。

本節では、主として“给……V”構文を用いる受益構文について考察を行う。受益者を参与者として導入する受益構文は、日本語のように幅広い構文に適用できる言語もあるが、中国語の“给”を用いる受益構文は、“给”に後続する受益者がIOとしてプロファイルされており、「受益」の内容が動詞によってかなり制約されている、というのが本書の主張である。“给”を用いる受益構文は、IOを人間とし、DOが存在しなければならない。制約の内容は、DOであるNP2とNP1の領域に関わるものである。

本節でいう受益表現は、次の例文(102)のような構文である。

(96)老元下乡检查回来,背了一大堆东西,元二嫂高兴地给老元开门。

(《人民日报》1993年)

元さんが田舎から検査して戻って、たくさんの物を背負ってきた。元二姉ちゃんはニコニコしながら、元さんにドアを開けてあげた。

例文(96)で、構文のIOとして表された“老元”は、トラジェクターである“元二嫂”の“开门”ことによって、利益を受ける受益者である。この場合に、“门”の位置変化はしないが、状態は変化する。“门”のこの状態変化を“老元”が期待していた、という点で「受益」が成立するが、この点を、“门”が“老元”の「接近可能な領域」にある、と考える。

楊(2009:3)が「そもそも授与と受益は密接に関係しており、必ずしも明確に区別できるものではない。一般的な状況の下では、ものの提供を受けた人物は抽象的な意味での受益者とみなされやすい」と言及するように、先行研究での「受益」と「授与」の定義は曖昧な点がある。本書も、受益表現の“给”がもともと「授与」を表す本動詞の“给”から拡張された構文であるという立場にあるが、受益表現と授与表現が共に二重目的語構文である点に着目し、その成立条件を動詞の種類とDOの領域に結び付けることにより、受益表現と授与表現が区別できると考える。

そのため、ここではまず、中国語の受益構文に新たな定義を提案する。また、同じく受益表現のマーカーである“为”や“替”との対照も含め、このタイプの構文の意味的特徴を探る。