4.4 “V给”構文の拡張のプロセス
本節では、“V给”構文の拡張のプロセスとして、本動詞である二重他動詞の“给”構文の用法から、“给”以外の二重他動詞と融合し、「受け手が含意される」他動詞と結び付けることを経て、二重他動詞以外の動詞での物の「授与」を含意する“V给”構文に拡張することを説明する。
第2章でも触れたように、プロトタイプとする本動詞の“给”構文は次の例文(26)に示すように、二重目的語構文を構成することが一般的である。
(26)S给NP1NP2
张三给李四一本书。
(盧1993:61)
張三は李四に本を一冊あげた。
しかしながら、“给”以外にも、例えば次の例文(27)に示すように、単独で二重目的語構文が成り立つ動詞もある。
(27)S送NP1NP2
我送他一支铅笔。
[作例:自然度1.00]
私は彼に鉛筆を一本贈った。
プロトタイプの二重他動詞の“给”はまず、同じく二重他動詞である例文(27)の“送”のような動詞と結び付き、次の例文(28)に示すような二重目的語構文を作る。
(28)S送给NP1NP2
我送给他一支铅笔。
[作例:自然度1.00]
私は彼に鉛筆を一本贈った。
朱(1979)は、“V给”構文が「授与」を表す二重目的語構文の本来の形式であり、語義として本来「授与」を意味する動詞の場合が、「緊縮形式」として動詞単独で二重目的語構文をとる、とする。この考え方では、“给”自体も本来は“给给”の緊縮であるということになる。ただし、“V给”構文の二重他動詞構文では、IOの省略が許されない点で、動詞単独の二重目的語構文とは異なる。次の例文(29)と例文(30)を見てみよう。
(29)a.我送他一支铅笔。
[作例:自然度1.00]
私は彼に鉛筆を一本贈った。
b.我送一支铅笔。
私は鉛筆を一本贈った。
(30)a.我送给他一支铅笔。
[作例:自然度1.00]
私は彼に鉛筆を一本贈った。
b.*我送给一支铅笔。
私は彼に鉛筆を一本贈った。
「授与動詞」が単独で用いられる構文が“给”と融合し、拡張される構文は図式化すると、次の図4-1になる。
図4-1
もともと「授与」の意味をもつ二重他動詞は単独で二重目的語構文を構成することができる。このような構文で、トラジェクターはランドマークの受領者(IO)に移動物を授与することを意味する。“给”はこのような動詞に後続し、“V给”構文となり、受領者をランドマークとして、これに認知的な際立ちを与える二重目的語構文であると考える。
“寄类(「差し出す」類)”や“写类(「書く」類)”のような「差し出す」行為や「手紙を書く」行為は、「授与」の意味をもつが、常に受け手の存在が含意されている。しかし、これらの受け手は、動詞単独の構文では参与者としてプロファイルされていないため、二重目的語構文が構成できない。
(31)a.张三寄了一本书。
[作例:自然度1.00]
b.*张三寄了李四一本书。
張三は(*李四に)本を一冊送った。
(32)a.他写了一封信。
[作例:自然度1.00]
b.*他写了校长一封信。
彼は(*校長に)手紙を一通書いた。
“寄类(「差し出す」類)”や“写类(「書く」類)”のような動詞は、“给”が後続されると、“V给”構文を構成し、新しく成立した“V给”構文は、受け手に認知的な際立ちを与えて必須のIOとする。
(33)a.张三寄给了李四一本书。
[作例:自然度1.00]
b.*张三寄给了一本书。
張三は*(李四)に本を一冊送った。
(34)a.他写给了校长一封信。
[作例:自然度1.00]
b.*他写给了一封信。
彼は*(校長)に手紙を一通書いた。“寄类(「差し出す」類)”や“写类(「書く」類)”のような「授与」の意味をもつが、動詞単独で二重目的語構文が成り立たない動詞は、“给”が後続されることによって、二重目的語構文が成立するようになる。図式化すると、次の図4-2になる。
図4-2
“寄类(「差し出す」類)”や“写类(「書く」類)”のような動詞が単独で構成する構文は、トラジェクターがランドマークの具体物を移動させることを意味する。受領者が含意されるが、構文の参与者としてプロファイルされていない。このような構文は“给”と融合することによって、“V给”構文を構成し、構文は具体物の受領者をランドマークとして、これに認知的な際立ちを与える二重目的語構文となる。
さらに、移動物がランドマークとしてプロファイルされる場合は、“把”や“将”を用い、移動物を動詞の前におく構文がとられる。このような構文は、Vが「授与」の意味をもつ動詞だけでなく、「取得動詞」や「動作動詞」などさまざまな動詞に拡張される。この場合は、二つの分離された動作行為のうち、結果として生じるDOのIOへの移動に焦点が当てられている。この種の構文は次のような語順で現れる。
(35)S把/将NP2V给NP1
希腊神话中的神祇,因把天火偷给人类而受到了宙斯的惩罚。
[例文(14)を再掲]
ギリシアの神話の中の神が天の火を人類に盗んでやった(盗み与えた)ため、ゼウスに罰せられた。
陕西省5年内3.7万户教工迁新居顺义县将最大块“蛋糕”切给教育。
[例文(21)を再掲]
陜西省は5年以内では3.7万世代の教職員に新築に引っ越しさせた。順義県がケーキの最大の分け前を教育に切ってやった(切り与えた)。
このタイプの構文の意味的特徴を図式化すると、次の図4-3と図4-4になる。
図4-3
図4-4
「取得動詞」構文では、「取得」の起点はランドマークとしてプロファイルされるが、“V给”構文となると、「取得」の起点が背景化され、プロファイルされない。逆に、単独の「取得動詞」ではプロファイルされない新たな参与者として、移動物の受け手が追加される。移動物は“把”や“将”に導かれ、“V给”の前に位置し、構文のランドマークとして認知的な際立ちが与えられる。
一方、「動作動詞」構文の場合は、トラジェクターが具体物に働きかけ、状態変化させることを意味する。動詞単独では具体物の受領者がプロファイルされないため、二重目的語構文が成り立たない。“给”が融合されることによって、具体物の受領者が新たな参与者として追加される。このような“V给”構文も、移動物が“把”や“将”に導かれ、“V给”の前に置かれ、構文のランドマークとして、これに認知的な際立ちを与える二重目的語構文を構成する。