2.6 おわりに

2.6 おわりに

以上では、プロトタイプの“给”構文、プロトタイプから拡張した“给”構文及び非典型的な“给”構文について考察した。

プロトタイプの本動詞“给”は、主語とIOは両方とも人間であり、DOが具体物であることが分かる。構文の意味的特徴に関しては、主語の直接的な働きかけによって、DOの位置変化とIOの状態変化が共に観察される。図式化すると、次の図2-1になる。

図2-1

主語のSがトラジェクターとして、直接的な働きかけを行い、移動物であるDOを自分の領域内から移動させ、結果としてランドマークであるIOがそれを獲得することを表す。

本動詞“给”のプロトタイプからの拡張として、DOが抽象物である構文、Sが人間ではない構文、IOが非情物である構文についても考察を行った。これらの構文は、それぞれメタファーによる意味拡張の例である。

DOが抽象物である場合は、DOの位置変化は観察されず、IOがDOを獲得するという状態変化のみに認知的な際立ちがある。図式化すると、次の図2-2になる。

図2-2

DOである抽象物は、もともと主語であるトラジェクターの領域内に存在する物ではなく、主語のSの働きかけによって、ランドマークであるIOの領域内に生み出す物となる。

構文の主語が人間ではない場合は、DOが主に抽象物である。この種の構文の意味的特徴を図式化すると、次の図2-3になる。

図2-3

主語のトラジェクターは非情物であるため、間接的な働きかけしかできない。そして、DOである抽象物が、主語の間接的な働きかけによって、ランドマークであるIOの領域内に生じることとなる。

構文のIOが人間ではない場合は、DOは具体物の時、DOの位置変化とIOの状態変化の両方が観察される。一方、DOは抽象物の時、DOの位置変化が見られず、IOの状態変化のみが含意される。図式化すると、次の図2-4と図2-5になる。

図2-4

図2-5

図2-4はDOが具体物の場合である。IOが非情物であるため、DOを獲得することが認識できないが、DOは主語の領域からIOの領域へ移動することが観察される。それに、非情物であるIOはDOが加わるという状態変化も見られる。

図2-5はDOが抽象物の場合である。この場合は、IOが人間ではないため、DOを生じさせることが認識できない点以外に、上記の「DOが抽象物である“给”構文」に似た特徴が見られる。

Sが人間である構文では、IOを主語とする動詞がDOに後続する構文がある。特に、DOがこの動詞の目的語である場合には、使役に似た意味になることがあるが、この場合でもSの行為により、IOがDOを獲得する、という“给”の動詞としての意味は保たれている。本書では、このような構文を本動詞の“给”構文にさらに動詞がつく構文とみなし、本動詞の“给”構文から拡張した構文とみなさない。

本章では、プロトタイプと異なる結果補語や方向補語を伴う文構造についても述べた。プロトタイプの“给”構文は、IOとDOの両方を要求するのに対し、このタイプの“给”構文は、IOが現れることができず、IOの位置に結果補語や方向補語のような補語成分が置かれる構造となる。このタイプの構文を図式化すると、次の図2-6になる。

図2-6

この種の構文は、“给”の直後にIOではなく、DOの状態を示す補語成分が位置される。IOが構文に出現することができず、IOの状態変化は背景化される。また、DOの行き先となるIOが構文に現れないため、DOの位置変化が観察される場合もあるが、それよりDOの状態変化のほうに認知的な際立ちがある。

最後に、“给”の主語が背景化され、代わって構文の主語としてDOが現れ、本動詞“给”の直後に結果補語のみが続く構文も考察した。図式化すると、次の図2-7になる。

図2-7

このタイプの“给”構文は、補語を伴う一種の結果構文であり、プロトタイプの二重他動詞の“给”と異なり、DOの位置変化やIOの状態変化が観察されず、DOの変化に認知的な際立ちがある構文である。

【注释】

[1]例文(3)と例文(4)は盧(1993:61)から引いたものが、日本語訳は筆者による。

[2]日本語の授受動詞の方向性に関しては、山田(2004)を参照する。

[3]例文(5)と例文(6)は張(2010:619)から引いたものが、日本語訳は筆者による。

[4]コーパスから引いた例文の日本語訳は筆者による。以下同様。

[5]劉・潘・故(1983:442)によると、“谓语由两个或两个以上连用的动词或动词短语构成的句子叫连动句。连动句的两个动词或动词短语共用一个主语(二つまたはそれ以上の動詞あるいは動詞フレーズが連用されたものが述語になっている文を連動文という。連動文では、連用されている複数の動詞あるいは動詞フレーズは主語を共にする)”。
また、劉・潘・故(1983:448)によると、“兼语句的谓语是由一个动宾结构和一个主谓结构套在一起构成的。即谓语中前一个动宾结构的宾语兼作后一个主谓结构的主语(兼語文とは、一つの動目フレーズと一つの主述フレーズが一部重なり合った形で述語ができているものである。即ち兼語文の述語において、前の動目フレーズの目的語は後の主述フレーズの主語を兼ねている)”。
なお、日本語訳は劉・潘・故(1988:594,602)による。