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日本の経済を考える

日本資本主義の大転換のとき大企業から家計へ——経済の軸足の転換を

志位:品川さんは、「企業を軸足とした経済」から「家計を軸足とした経済」への転換ということをずっと主張されています。まったく同感です。これは私たちの党の綱領の立場ともまったく一致するものだと感じています。

品川:私は、平和憲法をもっている国の経済は、国家経済をどうするかではなくて、国民経済をどうするかを中心にしなければならない、といってきました。その基本には「人間の目」で経済を見ていくということがあるんです。

日本の市場経済というのは、もともとは、市場原理主義とははっきり違うものだったのではないかと思います。医療、福祉、教育、環境、農業という問題を、すべて市場で解決しようという姿勢は誤りではないか。とくに小泉内閣以降は、新自由主義、あるいは「構造改革」と称する“貧乏神”で、国民生活全体が直撃を受けているのではないでしょうか。日本の戦後の経済が持っていたDNAとまったく違う形で経済運営がされるようになってきています。

志位:そうですね。軸足を企業から家計へということですけれど、軸足という点では、支配政党と財界は、戦後一貫して企業、とくに大企業を軸足にやってきたと思うんです。それはそう言えますでしょう。

品川:それは間違いないことです。

志位:ところがそれではいよいよ立ち行かなくなった。これが現在の状況だと思います。品川さんが「しんぶん赤旗」で発言された2000年に、私たちは第二十二回党大会を開きました。そこで、戦後の日本経済の構造変化という問題を分析したことがあります。

1950年代後半から70年代初めまでの「高度成長期」は、公害問題や物価問題などの矛盾が噴出しましたが、大企業の利益の一定部分が設備投資などをつうじて、経済全体に広がり、結果として国民生活のそれなりの向上にむすびつくという一面もありました。ところが80年代以降の「低成長」のもとでは、大企業はコスト削減によって空前の利益をむさぼり、働く人の所得は抑えられ、大企業の利益が国民生活の向上にむすびつかなくなるという状況が生まれました。大企業は栄えるけれど、国民はますます貧しくなるという状況になってきました。そういうもとでは、いよいよもって家計に経済政策の軸足を移さなければ、日本経済の未来はないということを、この党大会で打ち出したんですよ。

ところがその後、品川さんがいわれたように小泉・安倍内閣で、新自由主義、市場原理主義という形で、大企業応援型の経済政策を極端なところまですすめてしまった。大企業のもうけはバブル経済のときを上回って空前なのに、国民の所得は逆に下がるという状況をつくってしまいました。これでは家計と消費は低迷し、経済も健全には発展できず、結局は企業の利益も長持ちしない、そういう袋小路に入ってしまっている。企業から家計に軸足を変える、経済政策の大転換が必要だと思います。

品川:そうですね。ほんとうの意味で国民生活を直視することから始めないといけません。70年代までの日本の高度成長期には、経済の成長の果実というのを国民に分けるんだというのが、行政といいますか、いま竹中平蔵さんたちが目の敵にしている官僚の気持ちの中にもあったと思います。経済が成長すればするほど産業間の格差が出る。それは税や財政で是正する。税財政をフルに使いながら産業間の格差とか都市と農村の格差とかを少なくしようというのが、いままでの日本の資本主義のなかにもあったと思う。

それが、アメリカというのは、配分するのは資本家だ、いっぺん資本家の懐に入ってから配分するんだ、という考え方なんです。その考え方に、最近では、日本もすっかり染まってしまった。この考え一色に染まっているのは、世界でも日米だけといってもいいすぎではないと思います。

志位:戦後の日本の資本主義は、大企業に軸足をおいた経済という点では一貫して変わらないけれども、その枠の中でも、ある時期までは、税でいえば所得の再配分を重視していく。地方との関係では地方交付税によって格差をならしていく。終身雇用という形で一定の雇用の安定がある。これは悪い方向にも作用したけれども、リストラによっていつ首が切られるかという不安におびえる今のような荒れ果てた状態ではなかった。それが80年代の中曽根内閣くらいからだんだん怪しくなってきて、小泉首相となったら、国民の暮らしの底がすっかり抜けてしまったという状況にきていると思います。ここは大本から変えないと、この先の日本は、経済でもほんとうに立ち行かなくなりますね。

投機マネーを放置していいのか——経済界でも議論が

品川:経済をどうするという国民的論議をやらないで、アメリカ型の経済にスパッと変えてしまったわけですね。これが一番根源にある問題だろうと思うんです。アメリカの資本主義は正しい、一歩でもそれに近づけると、規制緩和とか「官から民」などのスローガンを叫んだ。それがいまの結果を招いたと思います。

問題は、市場に任せるという場合でも、健全なマーケットという意味での市場じゃないんですよね。資本市場ですよ。しかもその資本たるや過剰資本で利益を求めて動き回っている資本なんです。そういうのに任せるということでは、ほんとうはまともな経済運営はできっこないんです。

志位:そこが問題ですね。新自由主義の下でいま猛威を振るいつつある、もっとも悪質な資本は、投機的資本、投機マネーだと思うんですね。

品川:資本と労働の資本じゃないんです。

志位:そうです。労働者を雇用して、物をつくるためにお金を使うのではなくて、お金そのものを商品にし、通貨の取引、株や債権の取引で莫大(ばくだい)な富を得る、投機マネーが、実体経済をはるかに上回る規模で膨らんでしまった。世界の外国為替の取引は、世界の輸出入の総量のなんと百三十二倍になっています。

品川:ついこの間まで四十倍だったんですよ。(笑い)

志位:国境をこえて瞬時に動きまわる投機マネーが、国民生活に深刻な被害をあたえています。原油と穀物、生活必需品や食料品の高騰が大問題になっています。とくに寒い地方では、お年寄りが灯油を買うのにもお金がないことが、命の危険につながるような状態です。この冬に犠牲者を絶対出さないように緊急対策が当然必要になってきますが、原油、穀物の高騰の原因がどこにあるかといったら、国際的な投機マネーが、これらを投機の対象にしたことにある。そのために起こっている事態です。

昨年、ドイツのハイリゲンダム・サミットで、国際社会が協調して投機マネーを規制すべきだとドイツが提案したでしょう。反対したのは「日米同盟」です。マネー資本主義、投機資本主義を、世界では協調して規制しようという動きになっているときに、日米が結託して反対するという構図になっています。ここにもほんとうに打開しなければならない一つの大きな問題があると思っています。

品川:恐ろしいことに、そういう投機市場が、企業の活殺の権限をにぎってしまっているわけですね。本当は日本の企業は5%の利益を上げていれば成り立つはずなのに、隣で10%の企業ができたら、お金は10%のところにしかいかないんです。20%の会社ができたら全部そっちに行っちゃうんですね。20%のところはどうやったかというと、まず雇用の徹底的なリストラをやった。それだけで、規模は小さくなっているけど、利益率は上がる。隣がリストラしたら、自分の会社もリストラしないでおれないように追い込んでいっているのが、いまのマーケットなんです。

志位:リストラをやり、賃金を減らせば減らすほど、ROE(株主資本利益率)が上がって、株が上がるという関係ですね。そういう横並びのリストラ競争で利益率を高めて競争していく。そこで稼いだお金が実体経済には使われないで、企業の買収だの、投機に使われる。こんどは自分がいつ餌食にされるかわからない。企業社会も弱肉強食の極みともいうべき状態になっていることについて、経済界の中でもなんとかしたいという気持ちは広がっているんではないでしょうか。

品川:議論がおこっています。端的に言うと、日本を代表する新日鉄のような企業でさえ、買収におびえざるをえないような状況になってしまっているわけですね。しかも、その株を動かしているのが、外資なんですよ。東証の毎日の取引の六割はアメリカを中心とする外資です。彼らが値をつけているわけなんです。経済界にも「これでいいのか」という感じは非常に強く出てきました。投機資本を抑えないとまずいじゃないかと、経済界でも盛んに議論されるようになってきました。

志位:巨大な投機マネーが、一国の国民経済を食いつぶし、大手企業をも餌食にして動きまわる。これではまともな経済の発展、社会の発展はのぞめません。投機マネーを社会的に規制するためのルールを、国内的にも、国際的にも、きちんとつくることがどうしても必要ですね。

品川:そうですね。もう一つ、日本の伝統とずいぶん違うじゃないかといいたいことがあります。たとえば、最近ではどの会社でも、社長や取締役の給料というのは、ストックオプション(あらかじめ決めた価格で自社株を買うことができる権利)とかいう格好で、社員にはわからなくされているんです。

私たちが経営をやっていた時期には、一番多くとっているところで、社員の平均給与の八倍くらいだった。いまは百倍とか、アメリカの方は千倍とか当たり前だという状況です。リストラするときは自分が辞めるくらいでないとリストラの提案などできないというのが、日本の伝統だったんですよ。ところが、リストラした方が自分の給料が上がるという関係になっているんですね。

志位:そういうとてつもない貧富の格差拡大の仕掛けをつくったあげく、大金持ちに減税をするという政治は、たださなければなりませんね。

品川:どうもありがとうございました。