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中国などの新興国投資のポイント
中国に限らず、ベトナム、インドなど新興国の急速な経済発展を支えるのはインフラだ。これらの国々のインフラ需要は今後も伸び続ける見通しであり、インフラ関連の株式銘柄にとっては追い風が続く。また、国民の所得水準向上に伴い、不動産需要も今後ますます活発化するはずだ。建設やデベロッパー関連の株式銘柄だけでなく、不動産そのものに投資するのも大きなチャンスといえそうだ。
アジア新興国のインフラ、不動産関連の投資環境を中心に、「JAベトナム不動産ファンド(日本アジア証券取り扱い)」などで知られる日本アジアホールディングズの増田雄輔・取締役と、新興国経済に詳しいBRICs経済研究所の門倉貴史氏に聞いた。
中国株相場の見通しは?
——北京五輪が目前に迫っています。五輪後の中国経済および中国株相場の見通しは?
増田:中国経済に対する北京五輪の影響は非常に小さいと思います。五輪終了直後、経済成長率は若干下ブレするかもしれませんが、ほとんど誤差の範囲だと思います。
門倉:同感です。北京五輪後、中国経済は失速するとの見方もあるようですが、わたしは五輪後も高度成長は続くのではないかと楽観視しています。
過去の五輪開催国の場合には、開催都市の経済規模がその国のGDPに占める割合が大きかったので、開催後の経済にそれなりの反動があったのですが、中国のGDP(国内総生産)全体に占める北京の割合は4%弱とそれほど大きな規模ではありません。仮に北京の経済が五輪後に停滞したとしても、中国経済全体に及ぼす影響は限られると思います。
むしろ、中国経済の先行きで懸念されるのは、景気の過熱を封じ込めるため金融引き締めを強化していることです。引き締めが効きすぎた場合、短期的には景気が調整する可能性はあると思います。ただ中国の場合、日本が1990年代初めに「バブル崩壊」に至った経緯などをよく研究していますので、金融引き締めが効きすぎて経済がハードランディングする可能性は低いのではないかと予想します。
増田:中長期的に見れば、世界の政治・経済に対する中国やインドなど新興国の影響力は強烈に大きくなってくると思います。しかし、経済成長だけが株価に影響を及ぼすわけではありません。目先は、景気過熱や金融引き締めに対する不安感が大きく、短期的には中国株相場の調整が続く可能性もあります。とはいえ、長期スタンスで中国株投資に臨んでおられる方にとっては、絶好の買い場かもしれませんね。
門倉:中国に限らず、新興国に投資する場合には、少なくとも5年以上の中長期投資が大前提になると思います。新興国の市場規模はそれほど大きくありませんので、短期的には非常にボラティリティ(変動性)が大きいのが問題です。の短期の資金が引き揚げられたときに、株価がオーバーシュート気味に下落しやすい点には注意する必要があります。
ただ、中長期では新興国はいずれも成長の可能性を持っていますので、長い目で見ればファンダメンタルズに沿って株式相場も上昇することになるはずです。中長期で見れば、かなり力強い株価の上昇トレンドの恩恵を個人投資家も享受できると見ています。為替レートも、成長している国の通貨は自然と強くなっていきますから、現地通貨建てで投資をすれば、為替差益もそれなりに期待できると思います。
中国のインフラ関連銘柄に注目
——では、中国株投資をするうえで注目したい業種(セクター)は?
門倉:中国は中長期で鉄道や港湾などのインフラ投資、内陸部の発展に力を入れていく計画です。「第11次5ヵ年計画」(2006-2010年)でも、インフラ投資は国家予算としてかなり計上されています。これらの投資は、金融引き締めとは無関係に政府主導のプロジェクトとして推進されますので、中長期で考えた場合には中国の経済成長の大きな原動力になると思います。
——インフラ関連銘柄にとっては追い風ですね。
門倉:中国に限らず新興国全体に言えることだと思いますが、鉄道、空港、港湾、道路などのインフラ投資はひとつの大きなテーマになると思います。また中国では、沿海部を中心に中産階級、富裕層、ニューリッチ層と呼ばれる人々が多数台頭してきています。中国はこれまで投資に比べて消
費が弱いと言われてきましたが、いまは相当強くなってきているんですね。その意味で、ホテルチェーンや百貨店、旅行会社など消費関連の銘柄も期待できるのではないかと見ています。
増田:中国のみならず、インド、中近東などの新興国は、今後もインフラを発展させる必要がありますが、その恩恵を受けやすいのは、むしろインフラ建設をサポートする日本やドイツなど先進国の建設会社かもしれません。日本のゼネコン関連銘柄がじつは面白いのではないかと思っています。
——新興国の現地企業だけでなく、新興国で活躍する日本企業にも着目すべきだということですね。
門倉:わたしもそう思います。日本の国内需要はかなり低迷していますので、企業はどうしても海外に活路を見出さざるを得ません。先進国は内需が軒並み頭打ちの状態ですので、これから消費や投資が伸びる新興国に事業をシフトしていくのは自然な流れだと思います。そうした中で、早い段階からBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)をはじめとする有力新興国に進出している日本企業は注目に値するのではないかと思います。
いま、中東産油国の「オイルマネー」が政府系ファンド(SWF)を通じて日本株式市場に流れ込んでいますが、SWFの投資方針としては、日本の株を買うかどうかを判断する場合には、新興国にどれだけ進出しているかを重要な判断基準のひとつにしています。トヨタなど自動車メーカーがそうですが、新興国に進出している企業は「買い」という判断です。やはり新興国を開拓している企業というのは中長期で有望だと思います。
増田:まったくその通りですね。日本企業のみならず、欧米企業にしても、新興国のインフラ整備に活躍したり、消費市場を積極的に開拓している企業に将来性があるのではないかと思います。
新興国投資はインフラに着目
——日本アジアグループの日本アジア証券は、中国だけでなくベトナム、インドなど、さまざまなアジア新興国の株式や不動産を運用対象とする投資信託を扱っておられます。これらの国々の投資先としての魅力とは何でしょうか?
増田:中国、ベトナム、インドなどのアジア新興国は、戦後の日本と同じように、農村経済から20年間ぐらいのタイムスパンで工業国に大きく変化を遂げています。工業化の過程では交通、通信といったインフラ整備が飛躍的に進み、その結果、不動産価格は上がります。ですから、インフラと不動産はアジア新興国に投資するうえで、比較的安心な投資対象だと思います。
——中国だけでなく、その他のアジア新興国でもインフラ関連が有望だということですね。
増田:ただし、同じインフラでもユーティリティ(電気・ガス・水道)に関しては、政策をにらみながら慎重に投資すべきですね。たとえば新興国の場合、電力の仕入れ価格と卸価格を国が統制して、電力会社の業績に悪影響を及ぼすといったことも珍しくありません。
逆に、日本では価格統制が行われているのに、価格メカニズムがきちんと働いて業績の好調な分野もあります。
たとえば中国の高速道路です。日本の個人投資家はあまり注目していませんが、中国の高速道路の多くはBOT方式(建設・初期運営は民間が行い、その後、行政に移管する契約方式)で運営されているので、価格統制がなく、通行量が増えれば増えるほど事業体が儲かる仕組みになっています。今後、インドやベトナムでもBOTによるインフラ運営会社が出てくれば、面白い投資対象になると思います。
門倉:中国では最近になって、電気代や燃料代を政策的に引き上げる動きが見られるようになりました。中国石油天然気(ペトロチャイナ)などの石油関連企業も卸売価格を抑えられていたので、コスト上昇分をすべて負担していたのですが、価格転嫁ができるようになったので、今後は業績の改善が期待されます。
増田:門倉さんは、今後注目したい新興国としてイスラム金融圏のMEDUSA(マレーシア、エジプト、ドバイ、サウジアラビア)を挙げておられますが、日本人はインドより西には、なかなか目が向きませんね。
しかしこれからの投資においては中近東やアフリカも視野に入れることが大切だと思うんです。新興国と呼ばれる国々の世界経済に占める比率は非常に大きくなり、政治においても、経済においても、いわゆる先進国と呼ばれる国々の地位が優越的ではなくなっています。
新興国の地位も後退度合が減少してきて、両者の差はどんどん縮まってきていて、中長期的に見れば中国やインド、さらには中近東、アフリカのエクスポージャー(金融資産のうち、価格変動リスクにさらされている資産の割合)を取らざるを得なくなっていくのではないかと思います。
新興国投資の魅力と注意点
——個人投資家にとっての新興国投資の魅力と注意点についてお聞かせください。
増田:先進国と新興国の境目がなくなりつつある時代に、とくに日本が世界経済の中で役割や地位が相対的に低くなっている中で、個人の資産形成において海外資産のエクスポージャーは高くしていかなければならないと思います。
では、海外資産のウエートはどうしたらいいのかということですが、先進国と新興国がきっちり分けられない時代になってきていますので、新興国と言われる国々のウエートをある程度高めて、長期保有するというスタンスがよろしいのではないかと思います。成長性は高いけれど、リスクはかつてほど高くないという特徴が新興国にはあります。
門倉:先進国経済は成熟化しつつありますし、今後もそうなっていくでしょう。一方、新興国は高度成長の入り口にある国がひしめき合っている状態ですし、経済成長率に注目すると新興国のほうが高い成長ができますので、株式市場についても成長に見合ったパフォーマンスが期待できると思います。
ただし、新興国に投資をする場合には、ひとつひとつの国のマーケットは、それほど大きいものではありませんので、何かショックがあったときに調整しやすい難点があります。その意味で、個別の国のカントリーリスクは非常に大きいと思いますので、どこか1ヵ国に投資するのではなく、分散投資する必要があるのではないかと思います。
また、政治リスクを理解することも大切です。東南アジアではクーデターが起きたりとか、それで強制的に政権が交代すると、マーケットもそれに引きずられて短期的に大きく調整する可能性があります。個人投資家が新興国に投資するうえでは、政治の部分はつねに注意をして見ておく必要があると思います。
増田:個人投資家の方々は毎日の株価変動が気になるものですが、門倉さんもご指摘の通り、新興国には政治リスクによってボラティリティが高い国々が多く含まれていますので、政治的要因で株価が大きく左右される可能性があります。目先の要因に非常に振れやすい市場であるということは理解しておいたほうがいいでしょう。
アジア新興国には、これから「土地神話」が起こる国々が存在します。ある程度まとまった資産がある人なら、新興国での不動産投資を考えてみるのもいいのではないかと思いますね。