関連対談

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日本にお金と人を呼び込め

海外企業からの投資と観光客をもっと増やすために(其の二)

個人旅行者向けの細かいインフラ整備

伊藤:次に、観光という側面から、日本に人とお金を呼び込む戦略について議論したいと思います。いま日本政府は「観光立国」に向けて積極的な活動を展開しています。しかし、外国人観光客数は思ったほど伸びていないようです。どのようにしたら、観光客を増やすことができるでしょうか。

フクシマ:たしかに世界観光機構の統計によると、日本への海外からの入国旅行者数は世界で33位と、ウクライナより低いとのことです。しかし、JNTO(日本国際観光振興機構)の調査によれば、日本に来た観光客の94%が、「再び日本を訪れたい」と答えているようです。日本人の親切さや街の清潔さ、さらには安全性について高い評価を受けています。コストは高いけれど、非常にポジティブなよい印象を抱いて帰国する観光客が圧倒的なのです。だから、とにかく一度来てもらうようにすればよい。そうすれば、日本のよさを感じてもらえることは間違いありません。

伊藤:そんなに高い評価を受けているとは知りませんでした。「観光立国」をめざすうえでの下地はできているということですね。

フクシマ:一方で、「日本ではいろいろと不便があった」という声も、アメリカから観光客として来た友人たちから聞きます。いちばん多いのは言葉の問題です。東京や大阪以外で英語があまり通じずに困ったという。また、ヨーロッパやアジア諸国でも使えるアメリカの銀行のキャッシュカードが、日本のATMでは使えない、ということがそうとう不便だといっていました。

また、「ジャパンレールパス」という短期滞在の外国人観光客向けにJRグループが発行しているチケットがあります。これをもっていると、日本国内のJRの列車を新幹線(「のぞみ」以外)や特急も含め自由に利用できます。各国で引換証を受け取り、訪日後、チケットに引き換えるかたちをとっているのですが、引換箇所が空港の駅と、東京では東京駅や新宿駅、上野駅など6駅にしかない。非常に手間が掛かって大変だった。外国人観光客の立場に立って、使い勝手をもう少し考えてほしい、といっていました。

伊藤:銀行のキャッシングのシステムやJRのチケットなどは、基本的に日本人が日々の生活のなかで使うときの利便性を前提につくられています。だから、海外からの観光客には少々利便性の悪いものになるのでしょう。「観光立国」をめざすためには観光客の立場に立ってシステムを変更することも考えねばならないとは、なかなか難しいものですね。

フクシマ:日本人が海外旅行をする場合、いまだに団体旅行が多いようです。そこでは旅行会社がほとんどすべてをアレンジするので、一人ひとりの観光客が不便に感じることは少ない。一方、欧米人の多くは個人旅行ですから、観光客向けのインフラがかなりきちんと整っていないと、不便を感じてしまうのです。日本人の多くは、個人旅行に伴って生じる問題について実感できていないから、細かい点での整備がなかなか進まないのではないでしょうか。伊藤:最近は日本人でも若い人の多くが個人旅行に行くようになりました。しかし責任者の年齢にある人たちは海外での個人旅行をあまり経験していない。今後しばらく時間がたち、いまの若者が責任者の立場にならないと、インフラの問題点が根本的に改善されるのは難しいかもしれません。

24 時間フルに使える空港を増やせ

伊藤:インフラに関してはもう一つ、日本は空港の利便性や航空運賃の低減などの点で、まだまだ改善の余地があるとよくいわれます。グレンさんはいま、観光客を運ぶ航空機の製造会社にいらっしゃいますが、どのようなご意見をおもちですか。

フクシマ:私が日本代表を務めるエアバス社では「A380」という大型の旅客機のセールスを始めましたが、観光を促進するためにはこの機種を活用いただくことが有効だと思います(笑)。フランスのシラク大統領も来日時に、小泉総理に勧めたそうです。

伊藤:一機に800人以上が乗れると聞きました。すごい数ですね。「観光立国」の実現に向けて、多くの人を一度に運べるのは魅力的です。成田空港や関西空港などに「A380」が離着陸できる長い滑走路を整備することを考える必要があるのかもしれません。また、以前から指摘されている話ですが、日本に24時間フルに運用できる空港を、もっとつくる必要があると思いますが、いかがでしょうか。

フクシマ:空港の利用時間を制限してしまうと、利用者にとっても航空会社にとっても非常に不便です。それによって便数が制限されてしまうことになりますから、観光にとってもマイナスです。日本は国土が狭いから、騒音問題を解決させるのは容易ではないかもしれませんが、24時間フルに使える空港をもっと増やすことが、得策ではないかと私は思います。

伊藤:これから数年間に日本の「空の世界」は大きく変わっていくのではないか、と私は感じています。2010年ごろまでに完成する予定の、成田空港や羽田空港の新滑走路を上手に活用していけば、観光にプラスをもたらすことは間違いありません。

フクシマ:とくに、国内線に関しては変革をもたらさねばならないでしょう。航空会社間の活発な競争を促進させ、航空運賃の低減とサービス向上を図る政策を、より一層進めていく必要があると思います。今年の3月に北九州空港と羽田空港のあいだに1日12 往復を飛ばしはじめた「スターフライヤー」は、大手の航空会社より料金を低めに設定しています。しかし内装はけっこう豪華なんですよ(笑)。革のシートを使い、すべての座席にテレビのモニターが付いている。

このような新規参入の航空会社が、アメリカでもヨーロッパでも、アジアにおいても非常にたくさん生まれてきています。たとえばインドでは、国有の航空会社のほかに新規の会社がたくさん出てきて、その結果、100以上の民間航空機を昨年1年で380 機も買っている。日本も法律体系や資金調達のやり方を変更し、新しい会社がもっと出ることが可能な状況になれば、と思います。

伊藤:羽田空港や成田空港のキャパシティが増えていけば、新規参入が可能な状況になってくるでしょう。

フクシマ:さらに今後、航空業界では「貨物」の重要性が増してくると思います。最初に述べた、日本の魅力を高めて欧米企業の投資を呼び込むための手段として、「24時間フルに貨物を扱える空港づくり」が大切になってくると思います。

日本各地の名物料理を世界に発信

伊藤:最後に、「観光立国」に向けてのソフト面でのアピールの仕方についてお伺いしたいと思います。グレンさんはいかがお考えでしょうか。

フクシマ:21世紀になって再生した日本、「新しい日本」のイメージをアピールする必要があるのではないでしょうか。海外の人々は、1980年代までの高度成長を遂げた経済大国としての日本というイメージを強くもっていると思います。一方、90年代の日本経済が低迷した時期に関しても、「アジア通貨危機」と関連づけて見ている人もけっこういます。そのイメージで頭が固まってしまっている人が大多数ですから、それを打ち壊すことには大きな意味があると思います。

伊藤:自動車やウォークマン、さらにはテレビなどの「ものづくり大国」というイメージが強いということでしょうか。最近は、アニメやマンガなど、ポップカルチャーの影響力も出はじめていますが……。

フクシマ:たしかに、アニメや「Jポップ」、映画などのソフト面について、「新しい日本」の一側面としてアピールすることは十分可能ですね。さらに文化面では、「日本の多様性」について伝えていくことも面白いと思います。

そこで、各地方が「食と酒」を前面に打ち出し、さらに民芸品などの文化を強調して宣伝すれば、外国人がいまよりも多く訪れるようになるのではないかと思います。それを促進するためにも、先に述べた国内線の航空運賃の低減を実現すべきだと思います。

伊藤:食といえば、先日、三重県の桑名に行ったのですが、「桑名の焼き蛤」は江戸時代から全国的に有名な食べ物です。それを食べさせてくれる名物店は、4月から6月のもっとも蛤が美味しいシーズンには、ほとんど満席という状態が続くそうです。

以前は日本観光というと、東京と京都、奈良、広島がほとんどでした。それが最近、日本各地の地方都市を訪れる人が増えているようです。日本には地方ごとに特徴のある料理やお酒があります。最近、世界では日本食ブームですし、それに伴い日本酒に関心を抱く外国人も増えてきています。

そのような、日本人の多くが知っているような名物は、全国至る所にあります。しかし海外には情報発信をしてこなかった。日本食を好む外国人が増えているのですから、その人たちに向けてどんどんアピールすればよい、ということですね。

また近年、シンガポールなど東南アジアの人のあいだでは、北海道でスキーをすることが人気のようです。彼らの国では雪が降りませんから、雪のある日本の北の地域の魅力を、もっと東南アジア諸国にアピールしていけばよいのではないでしょうか。

フクシマ:日本は北海道から沖縄まで、気候も文化も多様ですから、その魅力をどんどん海外に伝えていけばよいと思います。観光資源は山ほどあるのですから。