第二部 日本で成功すればどこでも成功できる

第二部 日本で成功すればどこでも成功できる

伊藤:今後東京はアジア各都市との競争に勝って、海外企業の投資を増やし、経済の活性化につなげていく必要があると思います。その場合、アジアの各都市との比較のなかで打ち出せる東京の魅力とは何でしょうか。

フクシマ:まずは法制度が整備されているということ。さらに、社会が安定していることでしょうか。そして、何といっても世界屈指の経済大国の首都ですから、経済的な市場としての魅力があります。つまり一人当たりの所得が高いことは大変な魅力です。

それに加えて消費者も企業も、「日本で成功すれば、どこでも成功できる」といわれるぐらい品質、サービスに対する要求水準が高いことです。日本の市場から高い学習効果を得られると考えている企業も多いようです。このように、投資先として魅力的な要素は多くあります。

伊藤:一方で、ネガティブな要素は何になるでしょうか。

フクシマ:よくいわれる話ですが、コストが高いというのが、最大の障害だと思います。

伊藤:ただどうでしょうか、ニューヨークのマンハッタンの真ん中に住もうと思うと、やはり同じぐらいの家賃が掛かるのではありませんか。フクシマ:そうですね。家賃としては、オフィスだけでなく、

駐在員の住居についても同様です。

フクシマ:たしかにそれはおっしゃるとおりです。ただ、家賃以外の生活コストを加味すると、やはり東京のほうが高くなるような気がします。たとえば私は音楽が好きでよくコンサートに行くのですが、その料金はニューヨークと比べて相対的に高い。

またワインの価格も、アメリカのカリフォルニアワインなどでは、4倍から5倍ほどの価格差があると感じています。

伊藤:内外価格差については1990年代以降、話題になりました。それによって流通システムもかなりの効率化が図られ、一方、デフレの長期化で商品価格も下がったという実感をもっていたので、少し意外です。日本の物価はまだ高いという感じですか。

フクシマ:「日米構造協議」で議論していたころと比べると、是正されてきているとは思いますが……。

伊藤:駐在員の暮らしに関わる環境整備という点でもう一ついえば、外国人ビジネスマンの子供が通う学校が十分に整備されていない問題も大きいと聞きます。

フクシマ:欧米から日本に来るビジネスマンの大きな関心事の一つには、たしかに子供の教育の問題があります。先進工業国だけではなくアジアの他の国と比較しても、日本の教育行政は外国人学校に対しての規制がとくに厳しいと感じます。外国人ビジネスマンの家族が安心して生活できる環境を整えてほしいですね。

伊藤:海外各国には日本人駐在員の子供のための「日本人学校」が多数存在します。日本も早く同じような状況にならねばならないと思います。

フクシマ:欧米企業の投資に関してのマイナス要因としては、日本人の人材の問題もあります。外資系企業が日本に進出した場合に困るのは、欧米企業が必要とするグローバルな人材が、日本では十分に獲得できないということです。日本の現地法人できちんとビジネスを成功させ、なおかつ、本社に対しても、外国語で明確な主張ができる人材。論理的で分析力があり、危機管理能力に長けているような人をなかなか見つけられない、ということが悩みです。

伊藤:アジアの他の都市、香港やシンガポール、ソウルなどでは、そのような人材を見つけることが容易なのですか。

フクシマ:そう感じますね。世界最大手のヘッドハンティング会社である「コーン・フェリー・インターナショナル」の日本代表を務める私の妻は、最近、中国やインドでのヘッドハンティングビジネスが急成長しているといいます。人を探すのも、日本よりはやりやすいそうです。

ただしこの10年ほどで、日本社会もだいぶ変わってきました。それ以前は、一流大学を卒業して一流の大企業で働いている優秀な日本人男性が、簡単には外資系企業に転職しなかったのですが……。

伊藤:近ごろでは、大企業や官庁から外資系企業に転職する人が増えています。また学生でも、日本の大企業をめざすという既定路線に乗らず、初めから外資系企業に就職する者もよく見掛けるようになりました。状況は少しずつ変化していると感じます。