その二日本企業の課題とその改善策

その二日本企業の課題とその改善策

良い人材を確保するため、採用した後も長く働いてもらうために、改善しなくてはならない問題とはなにか。今回は日系企業にスポットをあて、グッドジョブクリエーションズ総経理・川口真氏、上海日総人力資源管理有限公司副総経理・杉川英哲氏にお話をうかがいました。

駐在員の認識と日系企業らしさ

編集部:上海にある日系企業の課題とは?

川口:ひとつは「駐在員のリーダーシップ」だと思います。駐在員を野球に例えるなら、監督やコーチ、エースや4番というチームの勝敗を左右すべき責任あるポジションです。現地スタッフに対する不満をもらすだけでなく、どうすれば会社が良くなるかを考え、自分が先頭に立って変えてやると決め、行動すべきです。現地スタッフに比べ高い駐在コストをかけている分、自身の存在価値を発揮し、現地スタッフの模範となり信頼と尊敬を得られるよう行動する必要があると思います。

杉川:私は「日系企業らしさ」だと思います。登録者に対し日系企業や日本人のイメージをヒアリングしていますが、良くも悪くも日系企業、日本人に対するイメージは実際の経験によって裏付けられているようです。総じて、日系企業には日系企業らしさが求められていると感じています。

編集部:人事において、制度上の問題は?

川口:日本本社は赴任者に対し、事前にさまざまな研修をしたほうがいいと思います。韓国企業では駐在員を派遣する際に事前研修だけでなくハードルを設けます。限られた駐在期間の中で自己のミッションを遂行しなければならず、それが即帰国後の役職や報酬にも反映されるので、みな必死にがんばっています。日本企業は最初から駐在員を手厚くする企業が多く、それが、これから海外でビジネスを立ち上げる際に必要なハングリー精神を損ねている気がします。もちろん言語や生活習慣の違う海外で働く人に対し、会社がその分の福利や手当てを設けることは大切です。ただ駐在中は支払わず、帰任後に手当を支給するなど、駐在中は仕事に邁進できるよう何らかの対策を講じてもいいと思います。

杉川:以前は、いい意味でのこだわりや熱意を持った方が中国に来られていたという印象がありますが、現在では、企業が中国ビジネスに投入する人材も多様化してきています。結果として、中国で初めて部下を持つようなケースも出てきていますので、今後は川口さんがおっしゃるような日本側での対策も有効だと思います。

コミュニケーションがキー

編集部:人事面での課題は?

川口:制度や組織という前に、ソフト面が重要です。日本人は幼少の頃より他人との協調、集団意識をおのずと身に付けているので、管理者が管理をしなくても問題が起こらないかもしれません。中国は最初に個ありきの文化なので、日本と同様に甘く考えていてはうまくいきません。私も会社では、スタッフとの人間関係作りや相手の考えを理解するなど、実は顧客以上に気を使っているかもしれません(笑)。

杉川:ソフト面といえば、今年上海で定年退職を迎えられたある日本人総経理の方は「自分の部下を娘や息子だと思って接してきた」とおっしゃっていました。総経理の帰国後、部下もその方を「父親みたいだ」と言っていました。日ごろから、部下の将来を考えた仕事の与え方、教育をされていたのだと思います。

川口:確かにコミュニケーショは大切です。最近、入社後試用期間中に会社を辞めるケースが増えていますが、中国人は日本人に比べ自己主張が強い反面、上司に対して会社に対する不満や自身の悩みなど、マイナスにとらえられる恐れのあることは意外に言えない面があります。上司から積極的にコミュニケーションをとり、それに気付き改善のサポートをすれば信頼関係も増し、このような問題も減るでしょう。

杉川:確かにそうですね。退社の問題に限らず、話していれば発生しなかった問題、解決していた問題は多いと思います。部下が何を考えているかを推測するだけでも、社内の風景がいつもと違って見えるかもしれません。

必要人材への基準や条件を明確に

編集部:採用面でのポイントとは?

川口:求人内容の優先順位や要望があいまいなケースが多いので、より具体的にする必要があります。また日本の面接は、会社が面接者を選ぶという一方的な感覚が強いですが、中国では対等です。日々の営業と同じように、自社のPRや入社後のキャリアパスを示し、相手に自社で働く魅力を伝える必要があります。こちらの質問ばかりに終始し、会社説明や相手に質問の機会を与えないと採用したい人材に振り向いてもらえないでしょう。

杉川:私も面接に至るまでの過程が大切だと思います。とくに書類選考をしっかりやっていただいている企業は、面接も非常に上手ですね。時々、同席している私のほうが入社したくなったりします(笑)。面接すればするほど混乱してしまう方もいらっしゃいますが、原因は面接ではなく、面接に至るまでの過程にあると感じています。

川口:やはりいい人材を採用したいという企業さんは、自社のこと、求人内容について積極的に話をします。

杉川:そうですね。話せば話すほど、採用基準も明確になってきますし、いい人材を採用したいという熱意が伝わってきますので、私たちも気合いが入りますよね。

編集部:最後にひと言お願いします。

川口:私たち人材会社は紹介から採用までのお手伝いがメインです。紹介者を食材に例えた場合、その素材を生かし美味しい料理を作るのか、調理に失敗して破棄するのかは雇用者に委ねられる所が大きいです。紹介した人が辞める理由も本人の問題、会社の問題、その他の問題とさまざまですが、きちんと原因を追求し必要あれば対策を取ることが次につながると思います。

杉川:そうですね。やはり入社後に伸びる人材というのは、企業がしっかり教育されているからであって、人材会社がいい人材を紹介したからとは限りません。中国の人材から話を聞いていると、今後、日系企業の良さがあらためて見直される時期が来るのではないかと感じています。