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中国が直面する貿易摩擦の現状
1979年にヨーロッパ共同体(EC)が中国輸出のサッカリン・ナトリウムに対しダンピングを提訴したことをきっかけに、世界各国の対中アンチダンピングの幕が開いた。1995年以降、中国は10年連続、世界範囲でアンチダンピング調査を最も多く受けた国となってきた。
中国商務部の統計によれば、1979年から2004年5月までに、既に34ヶ国・地域が中国の輸出商品を対象とするアンチダンピング、反補助金、セーフガードなどの貿易救済措置を637件発動し、4,000余りの商品に及んだ。金額のほうも膨らみ、2005年に入ってから現在までに、12ヶ国が発動した33件の対中アンチダンピングの金額は、前年同期より約20%増加した。それだけに止まらず、中国の輸出商品に対する規制は、技術障壁、環境障壁、知的所有権障壁等非関税措置までに広がるようになった。中国が直面する貿易摩擦はますます激化する態勢を呈している。
近年中国と諸外国との貿易摩擦には、以下の特徴が顕著にみられる。
① 労働集約型産業や、生産が相対的に過剩となっている産業、環境汚染がひどい産業などの商品は対中貿易救済措置発動の主要対象となっている。例えば、中国商品を対象としたアンチダンピングでは、件数でみると繊維製品、化工製品、鉄鋼製品、機械電気製品が70%~80%を占めている。
② EUのアンチダンピング調査の勢いは強く、2005年に入ってからの調査金額は9億ドルに上り、同期の対中貿易救済調査総額の60%を占める。
③ 米国からのアンチダンピング調査は若干減少しているが、逆に知的所有権調査案件は337件に増えている。
④ インド、トルコ、南アフリカ、コロンビア等の発展途上国も中国と貿易摩擦を起こし、2005年に入ってから発展途上国の対中貿易救済調査件数が総件数の66%を占めている。
⑤ 外国が中国で投資した企業の商品もアンチダンピングの対象となりつつある。
なぜ中国が世界各国の貿易救済措置の的となってきたのだろうか。その原因は4つ考えられる。
第一に、経済のグローバル化とともに、中国の輸出も急拡大の勢いを保ち、2004年に世界第三の貿易国となっている。これは、世界の既存の利益構造を揺るがすことになり、貿易摩擦は避けられないものとなる。中国商品は労働力と原材料の面で強い比較優位性を持っており、競争において有利な立場にある。中国がWTOに加盟した後、その他のWTOメンバー国の中国商品に対しての規制や割当も逐次撤廃されることになり(例えば米国向けの繊維製品の輸出割当の撤廃)、中国の競争優位性は一層強まっている。
第二に、中国の「非市場経済国」の問題により、他国が中国商品に対しアンチダンピング調査をする場合、中国自身のデータではなく、任意の市場経済国(即ち代替国)の同類商品の価格を根拠にしてダンピングの程度を計算することができる。このため、アンチダンピングの程度が過大評価されやすく、ダンピングありと裁定されやすい。このような状況にあるため、対中アンチダンピング措置の発動が乱用される傾向がある感も否めない。一方、中国も積極的に「非市場経済地位」の解決に取り組んでいる。2005年10月時点で、42ヶ国が中国の完全市場経済地位を承認した。また、一部の国が中国に対し非市場経済の条項を適用させないと承諾した。米国、EUも中国と市場経済地位についての対話メカニズムを設けた。
第三に、中国の輸出増加は依然として量的増加の方式を中心としており、高付加価値商品の比重は比較的低い。輸出商品は基本的に低価格競争力に頼っている。加えて、各業種は全体の長期計画が欠けており、目前の利益だけを追求する趣がある。一旦ある業種の輸出に利益が多く出ると、投資がすぐその業種に集中してしまう。しかも、業種内の調整が行き届かないため、輸出先の市場でお互いに競争ライバルとなり、最終的にアンチダンピングを招いた案件は少なくない。この種の輸出増加は一般に短期間で輸出量が大幅に拡大するが、金額の増加幅は小さく、あるいは減少することさえもある。
第四に、最近米国、EU 等の国・地域が頻繁に中国が輸出する繊維製品に対し貿易救済措置を発動するのには強い政治的背景もある。これらの国・地域において、失業問題や政治不安の問題があり、中国の輸出商品に規制を加えれば、ある程度民衆の関心を分散させ、政治的圧力を緩和する効果もあるとみられる。
中国の世界各国との貿易摩擦は中国国内産業に大きなマイナス影響をもたらしている。例えば、中米間の繊維製品をめぐる貿易紛争は、中国繊維製品の米国向け輸出産業を大変な窮地に立たせている。浙江省等の地域では多くの繊維企業が一時操業停止や閉鎖に追い込まれた。これらの企業が生産する低付加価値のTシャツは米国の最近のセーフガード割当にひっかかっているからである。
一方では、中国も外国商品に対するアンチダンピングなどの貿易救済措置を強化しつつある。
中国は2000年以降アンチダンピング措置を開始し、本国の関連産業を外国商品のダンピングによる損失から保護しようとしている。2003年以降、件数の上では、中国は世界でアンチダンピング措置を発動する3番目の国となり、アンチダンピング主要国の仲間入りをしつつある。しかしアンチダンピングは諸刃であり、頻繁な発動はかえって外国の対中アンチダンピングをさらに刺激する結果になるかもしれない。
近年の中国の大幅な貿易黒字はますます多くの貿易摩擦を引き起こす可能性がある。中欧間、中米間の貿易摩擦を中心に、今後の対中貿易摩擦の行方が注目される。