第三部 外国人研究者を招く「受け皿」づくりを

第三部 外国人研究者を招く「受け皿」づくりを

伊藤:それは個別の企業レベルでできることではありませんね。

奥田:国家レベルでやることも大切ですが、「産・官・学」の連携も考えられます。ただここで問題なのは、研究者が日本人ばかりだと、どうしても発想に限界が生じてしまうということです。やはり外国人の研究者や知識人を取り込んで、明治維新のときのように、彼らと一緒になって、本当の意味での知財となるものをつくり込んでいかなければなりません。

残念ながら、いまの日本の社会は、優秀な外国の研究者を受け入れる体制にはなっていません。給料が安いし、住宅も広くゆったりしていない。子供を学校に通わせたくても、インターナショナルスクールは、ごく少数しか存在しない。これでは外国の研究者に「日本に来てくれ」といっても、嫌がられます。実際、豊田工大で外国の研究者を招こうとしましたがうまくいかず、結局シカゴ大学構内に大学院大学をつくるしかありませんでした。

伊藤:「科学技術創造立国」を実現するには、外国の優秀な研究者が日本に来て生活できる環境づくりという点から始めなければならないということですね。

奥田:ただ不思議なことに、愛知県岡崎市にある分子科学研究所には、非常に優秀な外国人が何人も来ています。ノーベル賞クラスの研究者が3、4年ずつ来ては、交代で研究しています。彼らのためのフランス料理店などもあって、あの一角だけは外国人街のようになっています。こうした場所は、探せばまだあるのではないでしょうか。

伊藤:茨城県の筑波研究学園都市もそうですね。たしかに少し前にはかなりそのような動きがあったのですが、バブルが崩壊してから、グローバルな視点で日本の未来を考えようという意欲が少し薄れてきました。せっかく経済が立ち直ってきたのですから、ここでもう一度、本腰を入れてやることが大事ですね。

奥田:税制面で研究開発費のインセンティブを与えるぐらいでは、「科学技術創造立国」にはなりません。どうもそのあたり、日本は建前と本音が違うし、実行力に欠ける。それではいつまでたっても実現できません。

科学技術の進歩は、大変な勢いで経済や社会生活に影響を与えてきました。過去百年を見ても、世の中がこれだけ変わったのは、科学技術がそうとう関係していることは間違いありません。では21 世紀に、どのような科学技術が出てくるかというと、誰にもわからない。2010 年なら予測もつきますが、2050 年になると、もう人知を超えた世界です。それでも科学技術が世界を大きく変えていくことは間違いない。日本は「科学技術創造立国」として世界の先端を走らなければならないのです。

たとえば宇宙利用についていうと、ロシアや中国は有人宇宙船の打ち上げを度々行なっています。アメリカの「スペースシャトル」のように、地球の周りを旋回し、飛行機のように地球に着陸させるには大変な技術力が必要ですが、ロシアや中国のように、上下を往き来する宇宙船ならば、そこまでの技術力を必要としません。それでもこのような宇宙船があれば、どんどん資材を運べますから、宇宙工場だってできるし、そこで工業製品を組み立てることも不可能ではなくなるのです。日本もそのような宇宙船の開発に本格的に取り組み、宇宙利用を積極的に考えてはどうでしょうか。

このようなことをいうと、往々にして「夢物語だ」といわれますが、本来、企業経営者はそこまで考えなければならないし、政府も考えておく必要がある。それでこそ「科学技術創造立国」といえる、と私は思います。