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輸入ビジネスの魅力と着眼点とは
今回ゲストにお迎えしたのは、ジェトロ認定貿易アドバイザーの大須賀祐(おおすかゆう)さんです。数々の貿易商談を成功に導いた経験から、その手腕が「大須賀マジック」と評されている大須賀さん。意外に知られていない輸入ビジネスの魅力について、密度の濃いお話をお聞きしました。
臼井:今、私の手元に『初めてでもよくわかる輸入ビジネスの始め方・儲け方』という本があるんですけど、これを見て分かるように、大須賀さんは「輸入ビジネスのオーソリティ」というべき方なんですが、初めてお会いしてから、まだ1年経っていないですよね。結構いろんなところで会うので、すごく会っている気がするんですけど、実は1年経っていないというのが不思議な感じがしますね。
大須賀:臼井さんと初めてお会いしたのは、あるセミナーでお互いに講師として呼ばれたときのことです。私も講師として招かれたのですけど、以前から私自身も臼井さんのことを存じ上げていたので、一聴講生としてお話を聞くのことも楽しみにしていました。
臼井:大須賀さんのプロフィールを拝見すると、最初は東証一部の上場企業に入社されたとのことですが、そこからご自身で起業しようと思われたきっかけというのは、どういうことだったんですか?
大須賀:正確に言うと起業ということではないんです。もともと私の父が、漆器の産地である福島県の会津若松市で、そういった関係の卸業をやっていたんですね。
その会社をやっている家に、私が戻って貿易業に転業したということなんです。本来は貿易業じゃなかったので、会社の業務を変えたという形になるわけです。とはいっても、私が入ってすぐに会社を変えたというわけではなくて、いままでやってきた仕事を否定してしまうとうまくやっていけないと思いましたので、それはそのままにして、私は一人で輸入ビジネスの仕事を、最初は会社の新規事業として始めたんです。
そして、それがのちには会社全体になってしまったという感じですね。いわゆる業態変更ですから、あの当時のお客様と今のお客様とでは180度変わってしまっているんです。まったく同じ人がいないんですね。
臼井:輸入ビジネスを始められてから、海外から商品を引っ張ってくる中で「これぞヒット商品だ!」と手応えを感じた瞬間というのは、どんなときだったんですか。
大須賀:やはり最初は独占販売権というのを取りたかったんです。要するに海外のメーカーの商品を、日本中で一人だけ売れるという一手販売権ということですね。だから、その独占販売権を最初にもらったときには「やった!」と思いました。
しかもその商品というのが、少量ですが実はすでに日本に入っていたんですね。けど、最初のころはそれを知らないで、先方のメーカーと話を進めていたんです。それで交渉が続いたんですけど、結果的には二ヶ月後くらいに独占販売権を取れたんですね。
要するに「そっちをやめて俺の方にしろ」という話をしたのが受け入れられたということです。あとから気がついたんですけど、やめさせた会社というのが、うちより百倍も二百倍も大きい会社でして……(笑)。
こういう経験を通じて、「これが国際的なビジネスの世界なんだ」というのを実感しました。フェアというか、言い方をかえれば合理的ということだと思うんです。私の会社と大企業とを比べた場合、大企業の場合は、しょせん扱う商品の一部だろうというふうに判断したんだと思います。私の方は、「一生懸命やりますよ。月にこれくらいで年間これくらい。1年後、3年後は……」という話をしたので、それを冷静に比べてみて、私のところを相手にした方が得だと思ったんでしょうね。
臼井:大須賀さんはテレビにご出演されたり、幅広くご活躍されているとお聞きしているんですけど、今のお仕事の比重としては、どんなかたちが多いのでしょうか。福島を拠点に、海外に出張されたり東京に来られたり、いろいろ動き回ることが多いと思いますが。
大須賀:現在、仕事の内容は基本的に3つに分れています。メインが輸入販売。そして輸入代行。あとはセミナー・講演を含めたコンサルティング業ですね。特に会員制のインポートプレナーズクラブの組織拡大には力をいれています。また年によって違うんですけど、4~5回、多いときには10回以上海外出張をします。最近は本を書いたりコンサルティング多くなっているので、なかなか行けなくなってきていますが……。
東京へは月に2~3回は来るようにしています。どうしても地方にいると、まだまだ情報格差ってあるんですよ。自分に対する刺激という意味でも、東京で友人やクライアントさんと会ったりすることが大きく役に立つんです。
普段は、地元で一人で情報収集していることが多いんですけど、話すのはどうしても社員とかが多くなってしまいますよね。だから、東京に来たときには、できるだけいろんな方とお会いして、いろんなものを自分に刺激として与えようと思っています。
臼井:今までに入れてきたもので、最高のヒット商材というと何がありますか。
大須賀:数で売れている商品というと、小さいガラスのクマさんがあります。置物なんですけど、クリップとしても使えるちょっとした小物なんです。それが非常によく売れています。だいたい雑貨というのは3ヶ月とか半年のサイクルなんですよね。ですから、普通はそれくらいでダメになってしまうんですけど、この商品は1年以上のロングランになっておりまして累計で、15万個くらい売れています。値段が安いのでちょっとしたプレゼントに使われています。
臼井:大須賀さん流の、商品を探すときの着眼点を教えていただきたいと思います。「これはいける」「これは売れる」という自分なりのキーワードというのはありますか。
大須賀:商品を仕入れる前にまず2つの観点がありまして、まず内外価格差のものすごく大きいもの。例えば、日本で明らかに1000円で売れるものが、現地で200~300円で売っているものということです。これはチャンスだと思うんですね。
もうひとつは、特許ですとか知的財産権にからんだもので日本に入っていない商品であったり、あとは現地で黒山の人だかりができているような商品なのに、なぜか日本に入っていない商品。そういうものを常に見ています。どういうところに人が集まっているんだろうと観察することが大切ですね。
臼井:この対談を収録しているのが7月なんですけど、ちょうど折り返し地点から今年の後半に来ているところですよね。そこで、今年後半の展望といいますか、何か仕掛けていることがあれば教えていただきたいと思います。大須賀さんは、新しい本もお書きになっているんですよね。
大須賀:今書いている本は、日本実業出版社さんの「トリセツシリーズ」という企画がありまして、私が今担当しているのは、『貿易のトリセツ』というタイトルの本です。ある程度ひな形が決まっていますから、物語を考えて自分なりのノウハウを落とし込んでいくという形で筆を進めています。できるだけ早くみなさんにお届けしたいと思って奮闘中です。
今後の展開としては、現在「インポートプレナーズクラブ」といいまして、輸入で起業したい方・企業内での新規事業としての輸入部門のたちあげを考えている事業者のための塾というかクラブみたいなものを持っているんですね。「インポートプレナーズ」というのは、「アントレプレナー」という言葉と「インポート」をくっつけて作った一つのキーワードで、私が独自に提唱しているコンセプトです。今は、その会員さんを増やしたいなと思っています。その会員さんを増やして国外、国内に対してある程度力をつけていきたいと思っています。
輸入ビジネスとは、いっても行き着くところは物販です。最大の課題は、いかに販路をつくるかが最大の問題です。1000名規模のクラブにしてクラブ内でも流通が発生する、クラブの組織力で販売先の開拓にあたる。こういう組織であれば、大概の販売先は無視できない存在になりますからね 。それから9月に日本最大の国際見本市インターナショナルギフトショーというのがあります。4日間で20万の来場者があるビッグイベントです。そこの主催者から依頼を受けて輸入ビジネスセミナーをやることになっています。そちらも楽しみにしていただければと思います。
臼井:先日も私の友人からプレゼントをいただいたんですけど、ベトナム雑貨ですとか、東南アジアでもいままで馴染みがなかったようなところの雑貨をいただいたりすることが多いんです。普通の人でも、海外から若い人たちが面白いものを見つけてくるケースが増えているように思います。輸入ビジネスの世界でも、そういう流れを感じていらっしゃいますか。
大須賀:そうですね。最近では、ネットオークションに自分が海外旅行で探してきたものを出品して、仕事を終えて自宅に帰ってきたあとや、週末などを使って販売するというようなケースが増えています。
それを旅行代にするという感じの、言ってみれば「プチ起業」ですよね。極端な例では、旅行先にパソコンを持ち込んで、現場で見つけた商品を写真に撮ってオークションに上げて、それが売れるのを待ってから買うというような話もあるんです。
臼井:在庫を持たないんですね。うらやましい……。うちなんか在庫だらけですもの。倉庫に行って見ると気持ち悪くなります(笑)。「貿易」という言葉だけが一人歩きしてしまうと、なかなか一般の人は、ぴんと来ない方が多いと思うんですよ。ただ、若い方が海外に行って、いいものを見つけてオークションで売るというのを聞くと、非常に身近な感じがしますね。輸入ビジネスには他にもいろんな誤解もあるんじゃないでしょうか。
大須賀:例えば、輸入販売業というと、たいてい港があるところに会社を構えるケースが多いので、私の会社が会津にあると言うと、みんな意外な顔をされます。なんで会津なんですか、と。まあ、たまたまここに生まれ育ったからという理由なんですけど。コンサルティングをしている中で、例えば、「海がそばにないから貿易ができないです」という話を聞くこともあるんですが、「そういうことはありませんよ」と、自信を持って言うことができます。なにしろ私のところは太平洋まで3時間、日本海にも3時間かかる本当に山国なんですから。
「輸入ビジネス」というと、何か特殊な仕事のように思われるかもしれませんけど、実は物販なんですよね。物を買って物を売るということなんです。
逆に言えば、輸入貿易商の場合は、メーカーの立場になるんですよね。結局は特殊なことをやっているのではなくて、自分の見つけた物を、ただ単にチャネルに乗っけて販売するということなんですよね。とてもシンプルなビジネスモデルです。それから輸入ビジネスは英語が堪能でないとできないと思われている方も多いと思うんですけど、英語がしゃべれなくても、できないことはありません。基本的に、輸入ビジネスの場合は、自分の方が「お客さん」になるわけです。
売りたい相手は何が何でも分かってもらおうとするので、話が出来ないからといって、相手にされないということはありません。もちろん英語ができると言えば格好いいんでしょうけど、そんな格好いいものでもなくて、実は泥臭い物販の世界だということなんです。単に扱う商品が海を越えているというだけの話なんですね。