第2部 世界経済の中の中国年々高まるプレゼンス成長の底流にあるのは外国資本

第2部 世界経済の中の中国年々高まるプレゼンス成長の底流にあるのは外国資本

—2008年も維持される10%近い経済成長—

大原:壮大な成長トレンドが中国政府によって着実に実現しているということですね。

熊谷:2007年10月に開催された中国共産党大会でもアピールされた「2020年に一人当たりGDPを2000年の4倍にする」という政策は、江沢民政権時代からの方針であり、胡錦濤もこれを踏襲しています。中国にとって持続的な経済成長は大命題です。国営企業改革による失業者の雇用問題、そして余った農民を都市で吸収しなければならないという問題があるからです。

「経済成長一辺倒の流れにいったん少しブレーキをかけ、また走り出そうじゃないか」というのが、中国が今発信している国民へのメッセージであり、成長ライフのスパンを長く持続させるためのスピード調整なのです。現実的にはオリンピックもありますので、10%程度の成長率は維持されると考えています。

北京オリンピックや上海万博後の急激な経済の落ち込みを懸念する意見もありますが、先述のような第3、第4段階と続く壮大な成長シナリオを考えますと、かつて日本や韓国が経験したような大幅な落ち込みはないと考えますね。

—外国資本の導入は経済政策の底流—

大原:中国の経済政策は、1979年の改革開放政策スタート以来、5カ年計画を繰り返すサイクル経済の側面があると思います。振り返ってみれば、それぞれの5カ年計画において外国資本への門戸開放を進めたものの、4年目に入るとボトルネックが発生して規制がかかった経緯が繰り返されてきました。

2006年にスタートした11次5カ年計画(「十一五」)でも、このパターンは繰り返されるとお考えですか。私は2001年にWTOに加盟して以来、このパターンが崩れてきたと認識しています。

熊谷:90年代初頭のような繰り返しにはならないでしょうね。世界経済における中国の位置づけはますます高まってきています。

世界のGDP成長に対する貢献度も2003年度で5%くらい、2006年には11%を越え、2007年は約20%くらいになるのではと予想されています。世界の工場として発展してきた中国の輸出の約55%を在中国の外資企業が稼いで豊かにしてくれています。

その結果、中産階級および富裕層の裾野が広がり、中国は今や消費マーケットとして世界から注目を集めています。昨今中国へ進出する外資は、この拡大する消費マーケットをビジネスチャンスととらえています。

さらに環境、省エネの技術導入が急務の状況です。各論ではまだ諸問題がありますが、現在中国への年間直接投資額は約500億-600億ドル。外国資本の導入という経済政策の底流はまだまだ変わらないでしょう。

—世界中に及ぶ中国の経済成長の恩恵—

大原:今後も大きく落ち込むことはないと思われる中国の経済成長ですが、その恩恵を受ける相手はどこになるとお考えですか。

熊谷:世界の工場としての中国という点から考えると沿岸地域の人件費上昇などにより、労働集約産業は一部ベトナムやインドに向かっています。

ベトナムの今後の潜在的経済成長力には大きな魅力があります。中国に比べ労働人口が3000万人程度であることや受入容積には限界があるため、賃金の上昇も急速に速まる可能性もありますが、隣国の中国の経済成長がインパクトを与えていることは明らかです。

インドも今までのIT産業に加え、製造業育成のために外資企業の誘致に力を入れています。インフラ整備が中国に比べ10年近く遅れているため、現在インフラ建設ブームが起こっています。

一方、中国は消費を経済の牽引役とする内需中心の成長パターンに変化していく過程にあり、実際、内需拡大ブームが本格化する兆しが現れています。このように、中国は世界の工場としてそれと同時に魅力的な消費マーケットとして近隣諸国のアジア諸国の企業や欧米企業に好影響を与えているのです。

IMF(国際通貨基金)の景気予想によると、2008年の世界全体のGDP伸び率は+4.8%成長、国別では米国が1.9%と潜在成長率を下回る予想で、日本は1.7%。一方、新興国の2008年成長率(予)は中国10.0%、インド8.4%、ロシア6.5%と高く、また、過去1年間の世界経済の成長の約50%を中国、インド、ロシアの3カ国が占めたという分析が出ています。新興国が世界経済の牽引役になるという流れは2008年も変わらず、特に世界経済の成長率(4.9%)への貢献度はその30%くらいになると予想されています。

すでに2004年時で韓国の最大の貿易相手国は中国ですし、2006年には日本の最大貿易相手国も米国に代わって中国になりました。中国にとって最大の貿易国はEU(欧州連合)ですが、中国を中心とする新興国が米国の経済成長の恩恵を享受する時代から、米国が新興国の成長の恩恵を享受する時代へと変化していると思います。そういう意味では中国の経済成長の恩恵は全世界に波及しています。